元刑務官が自らの体験を元に死刑の実情と冤罪の存在、終身刑への疑問を語る本。
最初に語られている1980年代に著者が東京拘置所保安課長着任した後初めての死刑執行の際、1日に2人の死刑執行をする命令があり、1人目は担当警備係長の進言を無視して上官の命令は絶対という姿勢で死刑囚を騙して房から出して気づかれて大騒動になり大幅に遅れて死刑囚が気を失った状態で執行するという大失態を演じ、2人目は日常死刑囚とつきあいがある警備係長に任せてスムーズに執行できたという体験(19~52ページ)が鮮烈です。著者自身が反省を込めて語っているように、1960年代の少なくとも大阪拘置所では死刑囚も運動などは他の受刑者とともに行わせ、執行も2日前には予告して家族との面会やお別れ会をしていた(29~30ページ)のに、現在では執行は直前にしか知らせずマニュアル通りに執行することが最優先され著者が経験したようにだまし討ちで連れ出したりする、そういうやり方には強い疑問を感じます。
また終盤で語られている拘置所の支所長と「特別な関係」になった女性被告人が過去のレイプ事件を警察にもみ消されてそれがその後の夫の殺害の伏線となっているという事件で著者の担当の連続強姦殺人犯の死刑囚が懺悔した未解決の強姦事件がその事件という上申書を書かせたという話(177~206ページ)も涙なくして読めません。
刑務官として日常的に接していると冤罪の受刑者はわかる、冤罪は意外に多いという意見や、無期懲役の受刑者は仮釈放の希望があるから処遇できるのに昨今の仮釈放がほぼ絶望的な運用やましてや終身刑の創設となったら刑務所での処遇は困難になるという主張は、異論はあるでしょうが、刑務官としての経験を背景にしているだけに説得力があります。
著者の主張が気に入らなくても、体験部分だけでも読む価値があると思います。

坂本敏夫 ちくま新書 2010年2月10日発行
最初に語られている1980年代に著者が東京拘置所保安課長着任した後初めての死刑執行の際、1日に2人の死刑執行をする命令があり、1人目は担当警備係長の進言を無視して上官の命令は絶対という姿勢で死刑囚を騙して房から出して気づかれて大騒動になり大幅に遅れて死刑囚が気を失った状態で執行するという大失態を演じ、2人目は日常死刑囚とつきあいがある警備係長に任せてスムーズに執行できたという体験(19~52ページ)が鮮烈です。著者自身が反省を込めて語っているように、1960年代の少なくとも大阪拘置所では死刑囚も運動などは他の受刑者とともに行わせ、執行も2日前には予告して家族との面会やお別れ会をしていた(29~30ページ)のに、現在では執行は直前にしか知らせずマニュアル通りに執行することが最優先され著者が経験したようにだまし討ちで連れ出したりする、そういうやり方には強い疑問を感じます。
また終盤で語られている拘置所の支所長と「特別な関係」になった女性被告人が過去のレイプ事件を警察にもみ消されてそれがその後の夫の殺害の伏線となっているという事件で著者の担当の連続強姦殺人犯の死刑囚が懺悔した未解決の強姦事件がその事件という上申書を書かせたという話(177~206ページ)も涙なくして読めません。
刑務官として日常的に接していると冤罪の受刑者はわかる、冤罪は意外に多いという意見や、無期懲役の受刑者は仮釈放の希望があるから処遇できるのに昨今の仮釈放がほぼ絶望的な運用やましてや終身刑の創設となったら刑務所での処遇は困難になるという主張は、異論はあるでしょうが、刑務官としての経験を背景にしているだけに説得力があります。
著者の主張が気に入らなくても、体験部分だけでも読む価値があると思います。

坂本敏夫 ちくま新書 2010年2月10日発行