伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

証言拒否 リンカーン弁護士 上下

2016-05-12 00:28:46 | 小説
 リンカーン弁護士シリーズの第4作
 第3作(邦題「判決破棄」)で敏腕弁護士ミッキー・ハラーが初めて検察側に立った1年後、ハラーは再びリンカーン後部座席での執務に戻ったが、事件が減り、銀行の住宅競売で追い出されようとする住宅ローン債務者の民事事件に手を広げるようになっていたところ、ハラーの依頼者で銀行と闘うグループのシンボルとなっていた元教師が対立する相手の銀行の副社長を殺害した容疑で逮捕され、その弁護をすることになるという展開です。
 今回、ハラーは、アソシエイト(勤務弁護士)を雇い、事務所を借り、リンカーン後部座席で執務する弁護士という初期設定から遊離していきます。
 冒頭での設定も、ミッキー・ハラーのような腕のいい弁護士でも、住宅競売を受けた住宅ローン債務者に広告とDMで営業をかけていかないと食えなくなるというあたり、同業者として身につまされます。
 シリーズ第4作まで、法廷シーンが中心となるストーリーを維持し、証人尋問での攻防を描き続けているのは、リーガル・ミステリー作家としても珍しいといえます。そのアイディアが続くことはリーガル・ミステリーファンには福音といえましょう。弁護士の立場で読んでも、証人尋問での見切りと踏み込みの微妙な判断の描写、追い込まれた時の弁護士の心理と発想の描写が素晴らしい。弁護士経験がない作者がこういうものを書けることには、驚嘆します。
 他方、この作品の終盤と終盤から読んだテーマは、弁護士の発想ではない。弁護士もこの作品のラストのハラーのようなダメージと嫌気に襲われることはあります(つきあう依頼者層によっては、「よくあります」かも)が、弁護士はこういうストーリーは、たぶん、書きたいとは思わない。やはりこういったパターンを好む作者は、第3作とも通じる、体制寄り権力寄りの志向を持った「ジャーナリスト」なんでしょうね、と改めて実感しました。


原題:THE FIFTH WITNESS
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2016年2月13日発行(原書は2011年)
コメント
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