伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

警視庁情報官

2016-05-27 23:50:23 | 小説
 警視庁が秘密裡に開設した情報部門「警視庁情報室」の情報官黒田純一を主人公とする警察小説。
 シリーズ第5作まで出ているものの第1作なので、ハズレはないだろうと思って読んでみましたが、小説としては、ハズレでした。警視庁情報室の黒田純一が出社すると情報室を告発する怪文書が出回り、同時に世界平和教(この小説での位置づけからすると明らかに統一教会)への家宅捜索開始の情報が入るというプロローグは、普通に小説しています。しかし、その後は、ストーリー展開などどうでもよいと考えていると思われる、まるで警視庁情報室の沿革(社史)か黒田純一の伝記のように、布石も落ちも考えない昔語りが順を追って延々と続きます。プロローグに戻ってくるのは何と最終章第4章の終盤の341ページ。しかも、作者は黒田純一に自己を投影していると感じられるのですが、その黒田純一がとんでもなく有能・万能のエリートで、そのエリートが一切しくじらずそつなくエリート街道を進んでいき、周囲から賞賛され続けるというのは、小説ではなく、公安警察官としての作者の幻想/妄想を綴っているように思えます。このストーリーとしての面白さを考えず、自己を投影したエリートの成功妄想をひたすらに展開するという2つの点で、ストーリーテラーとしての意思を持たない者の文章を読み続けるのは、読書としては苦痛です。
 公安畑を歩んだ作者が、警視庁公安部の実情、ディテールを描いたという点では、その情報部分は興味深く参考になりますが、小説・娯楽作品として読むのには、無理があると思います。
 なお、「法務省記者クラブは通称『司法クラブ』と呼ばれ」(317ページ)とされていますが、私のおぼろげな記憶(もう20年あまり前の日弁連広報室時代の記憶ですが)では、「司法記者クラブ」は裁判所(東京高裁)所属の記者クラブで、法務省の記者クラブは「法曹記者クラブ」と呼ばれていたはずです。


濱嘉之 講談社文庫 2010年11月12日発行(単行本は2007年12月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする