編集者を痴情がらみで刺し損なった作家萱野千紘が、疎遠になっていた母の招きで鎌倉の亡祖父の住まいに移り住んで祖父の蔵書のうち高価に売れないものを「自炊」して電子データ化する作業に取り組むという設定のトラウマ引きずり・克服系小説。
千紘が、思わせぶりな態度を取りながら千紘が惹かれると引き寄せたり突き放したり翻弄する、ジコチュウで尊大で気まぐれな編集者柴田に惹かれストーカーのように追いすがるというエピソードを中核に据え、軽いノリで言い寄ってくるイラストレーターの猪俣と行きがかりと惰性で関係を持つエピソードと、千紘の13歳の時の母親の店の客磯野に強いられた(自分の意志によると書かされ、当時は自分の意志だったと思っていた)性的行為のトラウマをサブストーリーとして組み込んでいます。
子どもの頃の強いられた性的行為によるトラウマのために、男性との距離の取り方がわからず、言い寄られると自分から追いすがってしまい、その自分に自己嫌悪を感じるという形で、その後の人生を呪縛するトラウマの深さを描いています。一見テーマから浮いているように感じられる、千紘の本を裁断する行為への当初の嫌悪感と、その後の作業による慣れ、感覚の鈍磨は、作家にとって本を裁断するという行為の持つ重さ、それでさえ作業の実施により簡単に慣れてしまうこととの対比で、強いられた性的行為によるトラウマの深刻さ/重さを描く材料とされているのだと思います。作者が追い求めてきたテーマが、女性作家の痛い行為という現象を材料に、追い続けられているということなのでしょう。
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島本理生 文藝春秋 2015年8月1日発行
千紘が、思わせぶりな態度を取りながら千紘が惹かれると引き寄せたり突き放したり翻弄する、ジコチュウで尊大で気まぐれな編集者柴田に惹かれストーカーのように追いすがるというエピソードを中核に据え、軽いノリで言い寄ってくるイラストレーターの猪俣と行きがかりと惰性で関係を持つエピソードと、千紘の13歳の時の母親の店の客磯野に強いられた(自分の意志によると書かされ、当時は自分の意志だったと思っていた)性的行為のトラウマをサブストーリーとして組み込んでいます。
子どもの頃の強いられた性的行為によるトラウマのために、男性との距離の取り方がわからず、言い寄られると自分から追いすがってしまい、その自分に自己嫌悪を感じるという形で、その後の人生を呪縛するトラウマの深さを描いています。一見テーマから浮いているように感じられる、千紘の本を裁断する行為への当初の嫌悪感と、その後の作業による慣れ、感覚の鈍磨は、作家にとって本を裁断するという行為の持つ重さ、それでさえ作業の実施により簡単に慣れてしまうこととの対比で、強いられた性的行為によるトラウマの深刻さ/重さを描く材料とされているのだと思います。作者が追い求めてきたテーマが、女性作家の痛い行為という現象を材料に、追い続けられているということなのでしょう。
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島本理生 文藝春秋 2015年8月1日発行