伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ハラスメント裁判例77

2022-01-17 00:25:22 | 実用書・ビジネス書
 パワハラ、セクハラに関する裁判例を紹介し、著者のコメントを付した本。
 パワハラについては、円卓会議提言以来の6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)に沿って分類しつつ、6類型は提言段階では概念を明確にする意義があったがその後の膨大な事例の蓄積から6類型に収まりきれない新たな類型を構築すべきという著者の意見(25ページ)から「退職強要、解雇その他の処分」「不当な人事考課に基づく降格等」「正当な権利行使の妨害」の3類型を追加して検討しています。パワハラについては、6類型の概念への該当性と裁判官が違法と判断する要件ないしレベルの関係が、実務上問題となります。従来、ほとんどの裁判例で、6類型への該当性と不法行為の成立(違法性)は切り離して判断されて来ましたが、6類型に該当するということからすなわち違法とする裁判例も見られ、それが時の流れとパワハラ防止法でどう変化するのかしないのかが興味深いところです。時期的には難しいタイミングかとは思いますが、そういう観点での検討があると、弁護士にはうれしかったのですが。
 セクハラについては、指針の類型(対価型と環境型)とは別に、事実認定の問題、使用者責任、懲戒処分などを検討しています。対価型と環境型は、もともとアメリカでは公民権法(タイトル7)の性に基づく差別か否かが違法判断の分岐点だったために議論されたもので、「差別」ではなく人格権侵害が違法性の本質と扱われる日本法では意味のない分類で、行政にアピールする際には指針のセクハラに該当すると主張するために使えるというだけですので、裁判例を検討する際には有用な概念ではありませんから、そういう扱いでよかろうと思います。しかし、取り扱う裁判例が少ないこともあり、そういう裁判例もあるくらいにとどまっています。
 類似ケースでの違法性判断(違法とされるかどうか)、慰謝料額(何がポイントとなりどれくらい認められるか)、退職に追い込まれたとか精神疾患との因果関係(どういう事実が認定されると因果関係ありとされるか)の検討分析、時代を追っての変化がわかるととてもうれしいのですが、そのような分析は弁護士業界でも難しいところです。そこまでは望めませんが、裁判例を続けて読んでさまざまなものがあることを実感できたのはよかったと思います。


君嶋護男 労働調査会 2020年12月20日発行
 
コメント
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