伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

元彼の遺言状

2023-03-23 21:09:23 | 小説
 1年の交際の末にプロポーズしてきた男に対して差し出された婚約指輪の値段が気に入らない、内臓でも売って金を作ってちょうだいと言い捨てた超タカビーな28歳の金の亡者弁護士剣持麗子が、勤務先の渉外系大手の山田川村・津々井法律事務所からボーナスの査定が250万円と告知されて低すぎると激怒して辞めてやると息巻いて事務所を飛び出し、慰めてもらう相手を探して大学在学中に3か月だけ付き合った3代前の元彼森川栄治にメールを送ったところ、栄治の世話をしていたという者から栄治は死んだという応答があり、製薬会社の御曹司で巨額の資産を持つ森川栄治が自分を殺した犯人に全財産を譲るという奇妙な遺言を残したことを知り、栄治の知人から代理人として匿名で自分が犯人だとして遺産請求をするという依頼を受け…という展開のミステリー。
 作者ないし主人公とは対極の庶民の側で仕事をしている私には、企業側の弁護士のものの見方、着眼点が垣間見えるところ、また、企業側の弁護士の「町弁」に対するコンプレックスがほの見えるところが興味深く思えました。「村山のような個人相手の案件を中心に取り扱っている弁護士の中には、私のような渉外弁護士を『金の亡者』だと目の敵にする人も多い。いくら頭が良くてもハートがなきゃダメだよ、などと、オジさん弁護士から説教されたことも数知れず、毎回うんざりしていた」(133ページ)というのを、典型的な(というよりもかなり極端な)金の亡者でハートのない設定の弁護士に言わせても、説得力がありません。どれほど客観的に正しい指摘をされても、人間は自分のことについてはそれは誤解だと感じる/言い張るものだという、ペシミスティックあるいはアイロニックな「定理」を、作者が剣持麗子を用いて示しているということなのかもしれませんが。
 金が欲しいと正直に言っているんだというところまでは、人間の叫びとしてかまわないと思うのですが、主人公である弁護士が、あからさまなウソをついて遺産請求をするという依頼を受け、自ら積極的に策を弄するという設定・展開、それを肯定的に描く姿勢については、私は反発を感じます。業界外の人間、例えば放送作家とかが、弁護士に対しそういった偏見を持ち、またそういった偏見におもねって視聴率を稼げればいいと考えるのは、まぁ仕方ないと思います。しかし、弁護士であることを売りにしている作者が、このような弁護士像を描き出すことは、世間の偏見を助長する効果が強くあると思いますし、作者が弁護士あるいは弁護士としての仕事に愛情を持っていないのだなぁと感じます。


新川帆立 宝島社 2021年1月22日発行
2020年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
コメント
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