伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

書店ガール 1~7

2024-05-18 22:52:07 | 小説
 第1巻時点で40歳のペガサス書房吉祥寺店副店長の西岡理子、27歳のコネ入社正社員北村/小幡亜紀、その2年後を描く第2巻で登場する吉祥寺駅ビルの大手チェーン店の文芸書担当者宮崎彩加、第2巻の1年後を描く第3巻初めで西岡理子が店長を務める新興堂書店吉祥寺店に小幡亜紀に憧れて学生アルバイトとして入店した高梨愛奈らの悲喜こもごもを描いて、書店で働くこと、女性が働くことの辛さ、苦しさ、難しさと達成感、希望を描いたお仕事小説。
 第1巻では、西岡理子と小幡亜紀の対立から休戦・共闘という展開で軋轢部分が多かったのですが、第2巻以降は悪役だった亜紀の夫小幡伸光も含め主要登場人物はいい人になり、チェーン店本部の幹部や一部の悪質な客などが悪役になり、さらにはチェーン店の経営層もまた悪いとはいえないというニュアンスを湛えて行きます。それはそれで微笑ましいというべきかも知れませんが、私は第1巻の激しさがよかったなと思います。
 女性が働き続けることの困難さ、書店を取り巻く状況とそこで働くことの困難さを、絶望的な暗さでもなく、といって楽天的な希望に満ちることもなく、ややほろ苦い展開で描いているのがリアリティを感じさせます。
 40代の西岡理子、20代後半から30代前半の小幡亜紀らを主役にして、女性の労働を描く本が「ガール」と題することに、私は違和感を持ちますが、作者からすれば、おそらくは出版社の編集者が提案したタイトルを拒絶できずまたその方が売れるという世相と折り合うことが現実的と判断したということなんでしょうね。


碧野圭 PHP文芸文庫
第1巻 書店ガール 2012年3月29日発行(単行本は2007年10月:新潮社)
第2巻 書店ガール2 最強のふたり 2013年4月1日発行
第3巻 書店ガール3 託された一冊 2014年5月22日発行
第4巻 書店ガール4 パンと就活 2015年5月22日発行
第5巻 書店ガール5 ラノベとブンガク 2016年5月20日発行
第6巻 書店ガール6 遅れてきた客 2017年7月21日発行
第7巻 書店ガール7 旅立ち 2018年9月21日発行
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ホントのコイズミさん NARRATIVE

2024-05-17 23:04:27 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」から脚本家(宮藤官九郎)、ポッドキャスター、書店経営者、哲学者をゲストに迎えた回を出版した本。
 1冊目のYOUTHと2冊目のWANDERINGは、基本的に書店・出版関係者を中心にしていましたが、3冊目のNARRATIVEは特にそういう方向性ではなくおもしろければいいという選択のように見えます。ポッドキャスターなんて共食いみたいなチョイスもありますし。
 小泉今日子が、エゴサーチを平気でする(26ページ)とか、小泉放談で「エゴサめっちゃするよ」と書いてると指摘されてドラマのオンエア中に2チャンネル見てて下手とかすごい言われてて(72ページ)とかいうのが、打たれ強さなのか今は乗り越えたよということなのかわかりませんが、ちょっと感心します。「今57歳ですけど、すごくいろんなことが頭に入ってきて勉強ができるようになって、確実に昨日より今日の私のほうが何か進化しているような気がしている」(149ページ)とか「57歳の私が若いと言われることは、わりと嬉しいよ。だけど、私は君たちよりもっとじつは楽しいこと知ってるよ」(152ページ)とかも。


小泉今日子編著 303BOOKS 2024年2月4日発行
YOUTHは2024年4月18日の記事で、WANDERINGは2024年4月19日の記事で紹介
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放課後ミステリクラブ3 動くカメの銅像事件

2024-05-15 21:58:58 | 小説
 4年1組の重田太一がドッジボールをしていてそれたボールを取りに行ったとき校庭の隅の茂みから見覚えのない大きなカメの銅像が顔を出しているのに気づき、しかも翌日もう一度見ると今度は体の半分が茂みから出ていて、カメの銅像が動いたと驚き、同級生のミステリクラブ3人組に相談し、例のごとく名探偵辻堂天馬が推理するという児童向けミステリー。
 読んでいて早い段階から概ね同方向の真相を予想していましたが、提出された結果は想定していませんでした。なぜなら、この作品の示す「真相」であれば、どんなプロがしたとしても現場にその痕跡を残さないということはとても考えられず、現場を観察すれば最初に現場を確認した段階で名探偵が気づかないなどあり得ないからです。だからこそ、現場にあからさまな痕跡が残らない、結末とは少し違う謎解きを想定していたのです。それだとしても、それでも今回は名探偵辻堂天馬、観察力なさ過ぎと、私は思っていたのですが。ということで、悪いけど、この作品の謎解きは成立していないと、私は思います。


知念実希人 ライツ社 2024年2月21日発行
1は2024年4月22日の記事、2は2024年4月23日の記事で紹介
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労働法はフリーランスを守れるか これからの雇用社会

2024-05-14 23:29:21 | 実用書・ビジネス書
 ウーバーイーツの配達員など雇用契約の形によらずに働き会社側からは業務委託だとか自営業者だと言われている人々について、労働者であれば当然に受けられる最低賃金とか解雇規制、失業手当、労災保険などの保護それ自体やそれに類する保護をどのように及ぼしていけるかについて、労働法の歴史やヨーロッパでの動きなどを紹介して論じた本。
 著者の主張は、「フリーランス新法について指摘したとおり、個人事業主に対する保護を実現するためには、労働者に認められる場合よりも劣る保護を新たに追加するという方策が、常に取られてきたと言わざるを得ない。そして、いったん自営業者に対する特別規制ができれば、その対象となった自営業者の労働者性は否定される傾向になりがちである」(245ページ)というところに端的に表れています。労働者性の判断では、労働者性が積極的に認められるかという姿勢ではなく、事実上の拘束を重視し、事実上の拘束を受けているものは事業者性が弱く、事業者であり得ないものは労働者だということかと思われます(237~238ページ)。
 ヨーロッパの法制や判決の紹介は勉強になりましたが、同時に各国の具体的な法制度や使われている概念・用語を私が理解できていないので、今ひとつ消化しきれませんでした。残念。


橋本陽子 ちくま新書 2024年3月10日発行
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動物園を100倍楽しむ!飼育員が教えるどうぶつのディープな話

2024-05-13 18:40:21 | 自然科学・工学系
 動物園などで見られる動物51種について、概ね3ページで、その生態や希少性(絶滅危惧の程度)等を解説した本。
 動物園の飼育員の話が中心ということからか編著者の関心からか、繁殖(発情期や交尾の方法、妊娠期間、1度の出産での出生数や出産の頻度、その後の子育て)と寿命の話題と餌・食事、飼育での注意点の話題が中心となっています。
 アルマジロの陰茎が全長の2/3に及ぶ(13ページ。そう書いていながら、「交尾では体長の約半分ほどにまで膨らんできます」って、謎)とか、アルマジロ類の多くは1日に16~18時間眠ります(12ページ)とか、トリビアが満載です。
 トナカイは硬い餌を与え続けると歯が著しく摩耗したり欠損する(41ページ)、ゴリラに野生でない人が食べる甘い果実をやるのは虫歯の元(51ページ)など、餌についての苦労話もいろいろとあり、興味深く読めました。


大渕希郷編著 緑書房 2023年7月10日発行
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図書館戦争シリーズ

2024-05-12 19:57:16 | 小説
 「メディア良化法」に基づき公序良俗に反する書籍等の入荷や流通の禁止、放送禁止やインターネット上の記事等の削除などの権限を持つメディア良化委員会と、「図書館の自由法」に基づき図書館の資料収集と提供の自由を行使しメディア良化委員会の検閲に対して唯一対抗権限を持つ図書館が互いに武装して抗争する2019年の日本を舞台に、高3の秋に好きだった本の続巻が出たのを買いに行った書店でメディア良化委員会に没収されそうになった本を取り戻してくれた関東図書隊員を名乗る青年を「王子様」と憧れ、大学卒業後図書隊に防衛員として入隊した笠原郁が、厳しく当たる教官堂上篤及び堂上班のメンバーとともに良化特務機関や賛同団体の攻撃と闘うアクション恋愛小説。
 恋愛小説としては、第1巻の最初の6分の1くらい読めば行く末は見えますが、そこを読者の期待に違わずに書き切って行くところにこそ手腕が感じられ、王道を行く気持ちよく読める作品だと思います。
 しかし、その他の部分には頷けないものがあります。冒頭のキャスト紹介から主人公2人を「熱血バカ。」「怒れるチビ。」とすることに始まり、言葉狩りへの反発がテーマであるからではありましょうけれど、挑発的な物言いが散見されます。
 本来のテーマの表現の自由・知る権利と検閲では、個人の人権やプライバシーと抵触するものであっても検閲は正当化されず、「その場合の救済措置は、司法が受け持つべき問題です」(2巻302ページ)というスタンスであるはずなのに、図書館に居座るホームレスについては「居丈高に対処したらいわゆる人権屋に駆け込まれて裁判沙汰になったりもする」(5巻198ページ)などと書かれています。場面が違うというのでしょうけれども、人権は嫌われ者の権利から掘り崩されて行くもので、自分の意に沿わないものであれ権利を守る必要があるのは表現の自由だけではありません。人権派と呼ばれる弁護士たちはそういう思いで世間やタカ派マスコミから嫌われる人たちの権利を守るべく闘っているのです。この作品での図書隊と同じ方向を向いて闘っていると思うのですが、作者がタカ派マスコミと同じセンスの「人権屋」などという言葉を持ち出すことには驚きます。この5巻と6巻の「別冊」はアニメ化が決まってその宣伝のために書き足されたようですが(文庫版あとがきで「大人の事情」と説明しています)、4巻までの本来のシリーズで図書隊の敵はメディア良化委員会というメディアを取り締まる権力であったのに、別冊では外れものの個人が悪とされ、闘う方向がある意味で外れものを嫌い取り締まりたい権力と一致するように見えます。「人権屋」などという言葉もその中で出てきたように感じられますし、6巻で専らストーカーが悪役・敵となり読んでいて「めちゃくちゃ気持ち悪い」(手塚:6巻247ページ。作者が「旦那」から「後味があまりにも気持ち悪くて」と泣きを入れられたそうです:単行本あとがき)のも、思えばそういった方向性の変化/変節のせいだったのかも(私にとっては、ですが)。恋愛小説としては楽しく読めましたが、そういうところで、なかなか人に勧めるのを躊躇してしまいます。


有川浩 角川文庫
① 図書館戦争 2011年4月25日発行(単行本は2006年3月:メディアワークス)
② 図書館内乱 2011年4月25日発行(単行本は2006年9月:メディアワークス)
③ 図書館危機 2011年5月25日発行(単行本は2007年3月:メディアワークス)
④ 図書館革命 2011年6月25日発行(単行本は2007年11月:メディアワークス)
⑤ 別冊図書館戦争Ⅰ 2011年7月25日発行(単行本は2008年4月:アスキー・メディアワークス)
⑥ 別冊図書館戦争Ⅱ 2011年8月25日発行(単行本は2008年8月:アスキー・メディアワークス)
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自治体のための所有者不明土地対策マニュアル

2024-05-11 22:33:18 | 実用書・ビジネス書
 所有者が不明(所有者が誰か自体がわからない)だったり所有者や共有者の一部の所在が不明(どこにいるのかわからない、連絡が取れない)の土地について、自治体がその土地を取得したり利用したいとか、道路管理等の都合で敷地内の木の枝を剪ったり倒壊しそうな家屋を解体したい、固定資産税を徴収できず困っているなどの事態にどう対応できるかを解説した本。
 所有者不明土地等については、近時さまざまな法改正がなされています。その制度について理解するという観点では、後半3分の1程度を占める第2章を先に読んだ方がわかりやすいかと思います。一般人と比べて行政はそういった場合にとりうる手段や調査でどこまで優遇されているかもわかります。
 道路管理や近隣住民の迷惑(むしろ突き上げ、でしょうか)対策、徴税などの事務で所有者不明土地問題で行政がいろいろ苦労しているということも理解できますが、他方、行政が優遇されている、例えば土地の時効取得について行政財産は実態としては利用されていないが故に第三者が長期にわたり(時効期間が経過するほどに)占有しているにもかかわらず「黙示の公用廃止」が認められない限り(めったに認められない)時効取得されないというのに、行政が占有している土地については積極的に時効取得の主張を勧めていることなど、お役所の専横というか、手前勝手さを感じます。


永盛雅子、井無田将、幸田宏編著 中央経済社 2024年3月1日発行
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桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活

2024-05-10 22:35:17 | 小説
 東京都心まで2時間あまりの千葉県「権田市」にある「たらちね国際大学」に日本文化学科准教授として赴任した桑潟幸一40歳が、降りかかる事件の謎を、研究室を部室化した文芸部員の学生たちに解いてもらうライトミステリーの短編連作。
 「化石に眠るDNA」(5月9日の記事)の著者が激賞しているので読んでみたのですが、私には合わない作品でした。冷笑・嘲笑と卑下に満ちた文章は、概ね不愉快で、笑いのツボも私とはズレていて全然笑えませんでした。太字ゴシックを多用する文章の不快感に、そう言えば準備書面でこういうのを書いてくる弁護士が時々いるなと、弁護士会が昔やったアンケートでそれを毛嫌いしている裁判官がけっこういたなというのを久しぶりに思い起こしました。底辺大学の実情、堕落ぶりを茶化すのは、作者自身が大学教授ということもあり、勝手にやってりゃいいと思いますが、千葉県出身でも青森県出身でもない(山形県出身だとか)作者が徹底的に千葉を田舎だと言い募ったり「本来なら青森の横あたりにあるべき千葉」(20ページ)とかいうような、他者をバカにし蔑むことで笑いを取ろうという姿勢には辟易します。


奥泉光 文春文庫 2013年11月10日発行(単行本は2011年5月)
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化石に眠るDNA 絶滅動物は復活するか

2024-05-09 21:45:41 | 自然科学・工学系
 化石の中のDNA(古代DNA)研究の歴史と現在と今後のあり方について、「ジュラシック・パーク」(恐竜の血を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められた化石から恐竜のDNAを採取して恐竜を復活させる)の実現の可能性、恐竜ほど古いものは無理でも近年の絶滅動物なら復活させられるかというテーマを軸に、著者の愛読書の「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」(奥泉光)の例を用いながら論じた本。
 化石の中から採取したアミノ酸やDNAは、劣化し分断されている上に菌類や細菌が入り込んで増殖していたり、さらには採取・実験・検査の過程で別の(現生の)ものが混入するなどのおそれがあり、そもそも化石生物のものかどうかの同定からして難しいなど、学問・研究的な観点での慎重さが求められる一方で、PCRによるDNAの増幅技術やゲノム解読・塩基配列決定技術の進歩により絶滅種の復活も比較的最近絶滅した種であれば技術的には不可能ではなくなっていること、その中で絶滅種を復活させるということがいいことなのかとか、勉強になるとともに考えさせられる本でした。
 DNAの増幅やゲノム解読に関する技術的な説明には私には難しく思えたところがありましたが、それ以上に、著者が強調するクワコーの素晴らしさが、私には今ひとつ理解できないのが残念でした。


更科功 中公新書 2024年2月25日発行
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初恋食堂

2024-05-08 23:31:59 | 小説
 高齢者向けマンションで健康食提供の調理の仕事をパートタイマーで始めて半年経つが常時顔を隠していることもあって人間関係がうまく行かず浮いている28歳の日向桐子が、その高齢者向けマンションの住人で食堂で食事をしない72歳の匙田譲治にひょんなことから連れて行かれた匙田の友人が経営する居酒屋「やぶへび」で匙田が作る料理を振る舞われたことを契機にほだされて行くお料理恋愛小説。
 本編(第1話)冒頭で、主人公が休憩中もマスクとサングラス(のような眼鏡)を外さず顔を隠していることがクローズアップされ、裏表紙では「自分の要望に強烈なコンプレックスを抱く日向桐子は」と紹介されています。そう言われれば、主人公が要望に劣等感を持っていると受け止めるのが通常だと思いますが、第2話の最初が「美しさは罪だ」で、桐子は美しすぎるという設定です。美人である故に被害を受け顔を隠して生きたいという人も、いるかも知れませんが、小説の設定として共感を呼ぶとは言い難く、そこでちょっとシラケる感じがします。
 28歳女性(既婚者)が72歳男性に恋するというのも、高齢者男性読者には希望を持たせるものでこういう作品もあっていいでしょうけど、やはりちょっと無理筋かなという気もします(ま…自分ではサイトで26歳女性が58歳男性に恋する小説を書いている私がこう言うのもなんですが。他人の作品を読むと、そう思ってしまいますね。やはり)。
 こういったところの設定に難ありという気がしますが、読後感としてはほんわりとしたいい感じの作品ではあります。


古矢永塔子 小学館文庫 2024年2月11日発行(単行本は2020年2月)
日本おいしい小説大賞受賞作
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