3月26日。
朝食の膳を見たら、何も言わないのにおにぎりが付いていた。「お布施です」ということだった。そういえば、この宿には大きな観音様が安置してあった。信仰深い方が経営しているのだろう。
親不知駅舎でお昼のおにぎりを食べていたら、駅員さんがヤカンでお茶を持ってきてくれた。映画のシーンに出てくるような光景だった。いかにも行脚をしているようなのどかな風景だ。
最大の難所「親不知、子不知」。
崖を削った、片側が海に面してあいているトンネルを越えなければならない。道幅の狭い、曲がりくねった道路を、大型トラックがすごいスピードで通り過ぎていく。もちろん人の歩く歩道などない。そこを変な格好の人が歩いているのを見たら、運転手はハンドルを切り損ねないか、心配で心配で、車が来るたび柱の陰に隠れてやり過ごした。お経を読む声も震える。
親不知トンネルを越えて一休みしながら、行こうか戻ろうかよっぽど考えた。この先どれぐらいこのトンネルが続くのだろうか。
子不知トンネルに入って、少し行くと、海岸の方へ下りる工事用の階段があった。海岸へ下りられるのかどうか行ってみた。
何と、階段は途中で終わっていて、そこから下までは数メートルの高さ。
階段を引き返してまたあのトンネルを抜けるか。それともここから下りて海岸を歩いてみるか。海岸はこの先続いているのか。道に上れるのか。一端下りてしまったら二度とここからは戻れない。
究極の選択を迫られた。