★空蝉の一太刀浴びし背中かな 野見山朱鳥
★あまりに軽き空蝉山河還るなし 小松崎爽青
★少年の机に地図と空蝉と 大木あまり
★机上に風喚びて空蝉旅立てり 庄司たけし
★空蝉の琥珀を抜けし翡翠かな 五島高資
空蝉が家の前の電柱にしっかりと着いていた。ちょうど私の目の高さにあり、私が道路に出ると目に飛び込んできた。多分今朝羽化したのであろう。
すぐ隣にプラタナスやケヤキの樹もあるのによりにもよってコンクリート製の電柱に這い登るとは。しかし古い電柱なので表面はざらついており、登り易かったのだろうか。しっかりとコンクリートの肌に爪を立てていた。
そっと手にとると、背中の割れが妙に生々しく見えた。まだ柔らかい生きた蝉が蠢いているように思えた。空蝉というのは、もぬけの殻ではないのだ、ということがふと湧いた。魂はまだその周囲を徘徊しているのかもしれない。
粗末に捨ててしまうのがためらわれた。