ようやく読書をする気になってきた。今月号は一応全編に目を通した。今回は特に気になったものだけをピックアップ。
表紙は志村ふくみの小裂(こぎれ)。
「志村ふくみは長い作家人生のなかで織りためた小裂を大切にとっておき、何冊かの小裂帖としてまとめている。今年一年間、『図書』の表紙に小裂が一点ずつ掲載される。小裂は心の断片であり、どんな小さな裂にも心が宿っている。「糸のあわいから、響いては消えてゆくかすかなさざめき」に耳を澄ませていただければ、と心から願っている」(志村昌司、「小裂への想い」)。
この表紙について、青野暦による[表紙に寄せて]は「our music」はこの表紙の小裂に寄せた詩。100歳を超えた志村ふくみの積み重ねた作品の集成「小裂帖」にある作品に、30代前半の若い詩人がどのような感性を共振させるのか、興味深いところ。しかし若い詩人の感性に私は追いつけなく、かつ理解できるとは到底思えない。
「悪い考えを耳に吹き込む悪魔と、暖炉の炎と、談笑しながら、一角獣の背を撫でていた/きみと会えなかった。日の、毛並み、波心地、unicorn、庭、閉じていて‣‣‣」と多分「15世紀末のフランドルで織られた連作タピスリー《貴婦人と一角獣》」の背景の色と呼応している。
「若き詩人へ」(志村ふくみ)は青野暦の詩への返信。
さらに「物を物として分析、解明してゆく方向とは逆の、物とは何か、物を物として存在させているものの領域というか、知識や努力では通れない、何か決定的な厳しい関門があるように思われた。」(志村ふくみ、「雪の湖」)が引用されていた。
・富士山とアラビアンナイト(西尾哲夫)
「ガランの仏訳「千夜一夜」は1704~1717年にかけて出版された。1704年は1707(宝永四)年に富士山の大噴火が起こった。マロン派キリスト教徒が「アラジンと魔法のランプをガランに語った。宝永大噴火によって日本では農作物の不作がもたらされたが、1708年には当時の中東でも不作と飢饉がつづいたため、マロン派はフランス国王に庇護を求めた。バリも1708年暮れから翌年にかけて大寒波となり、フランス全土で60万人もの死者が出た。大きな気候変動が人間の歴史を変えることがある。1780年代には世界各地で火山の大噴火が起こり、地球全体が長期にわたり異常気象に見舞われた。日本でも浅間山が噴火しで天明の大飢饉が起こったが、フランスでも凶作で民衆の不満が爆発し、1789年のフランス大革命の火蓋が切られた。」
・輸入学問としてのシェイクスピア(前沢浩子)
「シェイクスピアは翻訳不可能と断言した漱石は、英文学を英国の文学として「批評的」に理論家することを試みる英文学者であり、また日英同盟に沸く日本社会を冷静に描き出す国民作家でもあった」