美術館や博物館にすっかりご無沙汰になっている。だんだんイライラが昂じてきた。昨日練馬美術館で坂本繁二郎(1882(M15)~1969(S44))の没後50年展が開催されていることを知った。
★「没後50年 坂本繁二郎展」
練馬区立美術館 会期:2019年7月14日(日)~9月16日(月)
時間:10時~18時 展示替えあり。
前期:~8月18日(日) 後期:8月20日(火)~9月16日(月)
休館:月曜日。但し7月15日(月)、8月12日(月)、9月16日(月)は開館。
7月16日(火)、8月13日(火)は休館。
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
以上、ブログ「はろるど」より
実は「練馬区立美術館」は行ったことがない。いつか行ってみたい美術館と思っていたので、良い機会である。
坂本繁二郎は私が絵画作品に感動した最初期の思い出深い作家である。1970年にブリヂストン美術館での追悼展が最初である。そして2006年に同じブリヂストン美術館で回顧展が開催されている。ともに図録を大切に保管している。
1970年の図録はほとんどがモノクロであった。この追悼展では夏目漱石が注目して坂本繁二郎の名が世に出た「うすれ日」(1912)、「月光」(1969)の2枚のポストカードを購入した。遺作とも絶筆ともいわれる「月」(1969・6)は購入できなかった。(売り切れだったか、販売していなかったかの記憶はない。) 能面を描いた諸作品、馬・牛の作品、月の作品、どれもが対象と背景の境界が年とともに曖昧になりながらも、対象の存在感が増していくことに驚き、そして惹かれた。また落ちついた青とうっすらと暖かみがあり柔らかな赤茶系統の色彩が印象に残った。
その年、仙台の大学に通うようになったが、夏休みが終わった9月ごろ、当時一番丁にあった丸善の1階の書棚の間に、能面を描いた「壁」(1954)が無造作に額縁に入って床に置かれていたのを見つけた。3月の追悼展で見た作品であることはすぐに思い出した。むろん本物ではなく複製品だったが、毎日のように見に出かけた。値段にして1万数千円、一食75円の学殖で食いつないでいた私にはとても購入できる金額ではなかった。約2カ月後くらいにその作品は撤去されて他の作品に変わったのが残念であった。
この作品、画面の上部に女面が一つ壁に掛けられており、下部に能面を入れる箱が無造作に蓋を開けたまま、包んでいた布も畳まれずに描かれている。能という世界の所作の中ではちょっと異質のようなこの無造作な乱れようと、能面の唇の両端を上げて少し笑っているような面が、壁に掛けられているようで空中に浮かんでいるように描かれているのが、不気味である。
空中に浮かび、能楽に関係する人が空けたとは思えない箱の状況からは、自ら浮かび上がって妖しい世界を演出しているようにも思えた。この不思議な構図は忘れることができない。
しかしこの面は何の面が未だによくわからない。少し下膨れである。若女、近江女でもない。
2006年の回顧展では、この「壁」は展示されていなかった。「はろるど」の記事によるとこの作品は三菱一号館美術館に寄託され、今回展示されているとのことである。是非とも再開したい作品である。
さらに私が初めて目にする大作があるとのこと。「雲仙の春」(1934-1957)である。これも是非見たい。
1970年の追悼展の図録より「壁」