Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「荒地詩集1951」から

2020年08月17日 21時54分27秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等

 「荒地詩集1951」を本棚から取り出してみた。私が生まれた年に発刊された詩集である。久しぶりである。黒田三郎の詩は私はあまりなじみがない。引用したこの詩、なかなか理解できないが、それでも今回はじめて心に残った。
 戦後の荒れたこの国で、過去を捨て去り、過去をかくし、忘れ去り繰り広げられる美しい政治的言語の背後に隠されている「民衆への不信と憤怒と絶望」。詩人は敏感にそれを嗅ぎ取っている。

「市民の憂鬱」(黒田三郎)から

 あなたの美しさにふさわしく

失はれたもののみが美しく
失はれたもののみがあなたのものであつたと
ひそかにあなたに告げるのは誰か
心に残されたものは
赤錆の鐵骨と
燃え残つた石壁だけであると
ひそかにあなたに告げるのは誰か
美しいひとよ
思ひ出があなたを貪欲にする
かつてあなたを容れるためにあり
今も尚あなたを容れるためにある
空白のなかで
あなたの美しさにふさわしく
唇を淹れて出るひとことよ
たかがそれは
木と紙と硝子にすぎなかつたのだと

失はれたものの失はれた無数の穴から
風は吹き入り風は吹き出で
はるかに海が見える
かくされたものはかくれる影を失ひ
炎天の下
這ひ
蠢き
かくれて影を求めて
罵り騒ぎ・・・・
海のほとり
新しい旗のはためく町よ廃墟よ
新しい旗の影にかくれ新しい旗の下にかくれる
政治的動物の群れを見よ

飢えて今風なかに立つ美しい人よ
かつてあなたが持つてゐた多くの物の代りに
今あなたの持つてゐる多くのものを
あなたは今ひそかにあなたに告げよ
失はれた影のむかふに
あなたの眼が偽りなく捕らへて多くのものを
あなたは今ひそかにあなたに告げよ
あなたの美しさにふさわしく
あなたの持つてゐるものが
よし不信と憤怒と絶望であらうとも
あなたは今ひそやかにあなたに告げよ



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