食べ物の名前について考察してみよう。
鍋焼きうどんは、一人用の小さな鍋に、うどんの他、しいたけ、かまぼこ、エビ天、卵などの具材を入れて煮たものである。
この料理のどこに、焼くという行為が含まれているというのか。
正しくは、「鍋煮込みうどん」あるいは「鍋煮うどん」というべきであろう。
板わさは、かまぼこを切り、わさびを添えて、醤油を付けて食べるものであり、蕎麦屋などのメニューに出てくる。
板わさとは、「板かまぼこのわさび添え」の略だと思われるが、板は単なる敷物であり、わさびは添え物であって、主役はかまぼこである。
主役の名前はどこにも出てこない。
「かまぼこわさび」というのが正しく、略しても「かまわさ」というべきだろう。
主役の名前がない食べ物は他にもある。
磯辺焼きは、餅を焼き、醤油を絡めて、海苔を巻いたものである。
磯辺とは海苔のことだろうが、磯辺焼きだと海苔を焼いたもののようである。
主役は餅であるから、「磯辺焼き餅」あるいは「磯辺餅」といってもらいたい。
味噌の名前が付いた食べ物は多い。
味噌汁、味噌煮込みうどん、味噌田楽、それから我が家でよく作るへちまの味噌炒めなど・・・
一方、日本料理にとって味噌と並び、いやそれ以上に重要な地位を占める醤油の名前が付いた食べ物は少ない。
刺身は、醤油がないと成り立たない料理である。
生の魚を切って並べただけでは、おいしくも何ともなく、料理とはいえないが、これに醤油を添えると立派な料理となる。
これほど重要な醤油であるから、へちまの味噌炒め風にいうなら、「刺身の醤油付け」というのが正しい。
よく考えてみると、刺身という名前もおかしい。
「刺す」とは、串焼きの串を肉に刺すような行為をいうが、刺身はどう見ても切身である。
このため、切身というべきであるが、切身という名前は既に存在する。
刺身は、切身をさらに細かく切ったものだから、細切身とでもいったらいいだろう。
従って、今、我々が刺身と称しているものは、「細切身の醤油付け」というのが正しい。