ビールというのは、飲む環境によって味が異なるものである。
夏の暑い日に、のどを乾かして飲むビールはおいしいが、真冬の寒い中で飲むビールはおいしくない。
女性4人と、山小屋に1泊して屋久島を縦走したことがある。
1日目は、九州最高峰の宮之浦岳に登頂し、少し下ったところにある新高塚小屋に宿泊した。
屋久島の山は本格的な登山であり、皆疲労していた。
夕方、食事の支度をしていると、妻が
「実は・・・」
といって、リュックから取り出したものがある。
缶ビール5缶であった。
「みんなには黙っていたけど、これを担いできたの」
1泊の登山は、食料や寝袋などで重量が重くなり、少しでも荷物を減らしたいのが人情である。
登る前、一人に1缶づつ持たせてもよかったのに、皆を驚かそうと思ったのだ。
皆、こんな屋久島の山小屋でビールが飲めるなんて思っていなかったので、その根性に驚き、感激した。
早速、近くの湧水で冷やし、ビールで乾杯して食事をした。
宮之浦岳山頂までの苦しさを思い出し、山頂に登ったそのビールは、今まで飲んだどのビールよりおいしく感じられた。
食事も、レトルト食品であったが最高においしいものだった。
その夜の山小屋は超満員で、男も女も入り混じって雑魚寝であった。
山小屋でビールを飲みながらお食事。