学生時代、鹿児島市の繁華街天文館で、キャバレーのボーイのアルバイトをしたことがある。
当時、天文館には二つの大きなキャバレーがあり、そのうちのひとつだった。
ネオン輝く天文館のキャバレーは、華やかな夜の社交場だった。
正面に舞台があり、生バンドが演奏していた。
その下のフロアでは、客とホステスがダンスをしていた。
テーブルには、ローソクを灯したランプ(キャンドルといっていた)があり、客の注文があると、ホステスがキャンドルを持ち上げてボーイを呼び、伝票の切れ端を渡した。
ホステスには指名制度があった。指名されると何百円かの指名料が入り、人気ホステスほど収入が高いわけである。
週ごとに指名回数のランクが張り出された。
人気ホステスは必ずしも美人というわけではなかった。
いわゆる座持ちのいいホステスが上位だった。客を笑わせ、楽しませることの上手なホステスである。
「しのぶさん。5番テーブルへお願いします」
などという放送が流れ、人気ホステスはテーブルからテーブルへ蝶のように舞っていた。
時々、ドサ回りの芸能人が来てショーがあった。
ある日、ブルーボーイショーというのがあった。おかまショーである。
歌や踊りの間におしゃべりを入れる。酔客相手に毒舌やエロ話をして笑わせるのである。
ショーが終わり、楽屋にジュースを持っていくように言われた。
楽屋に入ると、4人のおかまが着替えの最中で、上半身裸だった。
そのうちの何人かは、胸が大きかった。
思わずおっぱいに見とれていると、何かにつまずいてジュースをこぼしてしまった。
「ホホホ、ボーイさん純情なのね」
おかまに笑われてしまった。
閉店後、交代で火の元の点検があった。
テーブルの下にタバコの吸殻が落ちていないか、楽屋に火の気は残っていないか、点検して回るのである。
ある日、私の当番だった。
隅から隅まで点検して回ったが異常はなかった。
12時過ぎに帰宅したが、その時、あのような大事件になろうとは予想もしなかった。
次の日の夕方、店に行くと唖然とした。
店の入っていたビルが完全に焼け落ちていたのである。
火元は私の勤めていたキャバレーだった。
私たちが帰った後、キャバレーから出火し、ビル全体が燃えたのである。
同じフロアの隣に、まだ営業しているバーがあり、ここの従業員4人が行方不明になった。
翌日、招集がかかり遺体収容の作業を行った。
しばらく作業していると、誰かの
「あったぞー」
という声がして、駆けつけると真っ黒に焦げた人間の形があった。
それは、人間というより物体という感じだった。
4人とも焼死体で見つかった。
葬式にも出席したが、棺に取りすがって泣いている家族がいて哀れだった。
それから何日かして、警察から呼び出しがあった。事情聴取である。
(次回へ続く)