■「ワンダフルライフ」(1998年・日本)
●1998年ナント三大陸映画祭 グランプリ
●1998年サンセバスチャン国際映画祭 国際映画批評家連盟賞
●1999年ブエノスアイレス映画祭 グランプリ・脚本賞
●1999年毎日映画コンクール 美術賞
●1999年東スポ映画大賞 作品賞・助演女優賞・新人賞
監督=是枝裕和
主演=ARATA 小田エリカ 寺島進 内藤剛志 谷啓
「ワンダフルライフ」は素晴らしいファンタジー。死者たちがあの世に召されるまで7日間。彼らは生涯でひとつだけ幸せを感じた思い出を選ぶ。舞台となる 施設ではそれをスタッフが映像として再現し、それを観て幸せな記憶がよみがえった者はその瞬間に天に召される。実社会と同様にいろんな人がいる。スタッフ は彼らとカウンセリングして思い出を選ばせ、映像化の段取りをする。しかしそのスタッフたちは思い出を選ぶことができなかった者たち。
所詮は虚構である映画が人の魂を昇華させる・・・なんて素敵じゃないですか。クライマックスの再現映像を撮る場面はなんかジンとくる。人々の手が一人の幸 せを支えようとする暖かさを感じる場面だけど、それが映画全体からも伝わってくるようだ。本編には他の映画にあるような、感情を高める音楽はない。カメラ はじっと思い出を語り続ける人々を追う。ARATAや小田エリカら主人公たちの内面にも深く入り込むような説明くさい場面もなく、カメラの視線はどこか距 離を置いて彼らを見つめているようだ。そこで思い出すのは、是枝監督のデビュー作「幻の光」で感じた距離感。ものすごいロングショットも交えて主人公二人 の姿を追うカメラに、僕は淡々とした冷静さを感じた。しかし「ワンダフルライフ」の視線は暖かい。真っ正面から見据えて、人々が語る人生を肯定してくれる ようではないか。土曜日に試写室へ向かう人々を先導するのは、主人公たちによって奏でられる行進曲。これらも実際に役者自身が演奏したっていうから、ます ます暖かさを感じてしまう。
エンドクレジット を観た後で、ふと自分の事を考えてみた。僕は昔から人を笑顔にしたい、こんないい物事があるよっていろんな人に伝えたい、そんな事ができたら・・・そう望 んできた。そのことを20歳前後の僕は、カッコつけて”人に影響を与える仕事がしたい”という言葉で表現してきた。例えばマスコミや情報産業の仕事を通じ て提供する情報で誰かの役に立ったり、紹介する音楽で誰かがハッピーになったり。でもそれは”影響を与える”ことではなくて、”人の幸せを手助けする”こ となんだよね。どんな仕事をしていようとそれは様々な形でできるんだ。僕はこの映画を観て、”誰かの幸せの場面に僕がいたら嬉しいな”と心から思った。そ れは僕がずっと思っていたことだけど、うまく表現できなかったこと。当たり前のことなんだろうけどね。そして今自分が死んで、幸せな思い出をひとつ選べと 言われたら・・・選ぶことができるだろうか?。いやいや、選びたくなるような事をまだまだいっぱいしなくちゃね!。