■「ふがいない僕は空を見た」(2012年・日本)
●2012年毎日映画コンクール 女優主演賞
●2012年キネマ旬報ベストテン 日本映画第7位・新人男優賞
●2012年ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞
監督=タナダユキ
主演=永山絢斗 田畑智子 窪田正孝 小篠恵奈 三浦貴大
誰もが人生うまくいってるわけじゃない。それでも、他の人と比べて自分はうまくいってないと思いがちだ。僕らは自己啓発本で高らかに自身の成功を語る器用に生きてきた人とは違う。人生投げてる訳でもないし、一生懸命にやってない訳じゃない。でも今の状況からなかなか脱出することは難しいんだ。どこかに不安を抱えながら僕らは日々を生きている。映画「ふがいない僕は空を見た」には、そんな僕らと同じように不器用な人たちだらけだ。子供を欲しがる姑と冷め切った夫に悩みながら、アニメのコスプレで現実逃避する里美(田畑智子)。そんな人妻とコスプレ情事にふける男子高校生卓巳(永山絢斗)。卓巳の友人で、痴呆症の祖母を母親に押しつけられた良太(窪田正孝)。医者の子供であることの重圧からか奔放な生活を送る良文(三浦貴大)。学校の先生や里美の夫も含めて、ほんとうに自分をふがいなく思っている人ばかり。
銀幕に向かうのが辛い映画だった。孫が欲しい姑からのあまりにも激しい要求、里美を縛り付けるその仕打ち。里美との情事が町中に知れわたってしまった卓巳と里美が受ける中傷、嫌がらせ。それに耐える家族たち。安産ばかりではない助産院の現実。わずかな食費を良太から奪い取る母親。団地住まいを見下すバイト先の店長。どうしようもなく厳しい場面の連続。逃げ出したい厳しい現実と、逃げ出せない自分という現実。
この映画で描かれるこうした現実をリアルに描ききることができたのは、役者たちの熱演あってこそだし、ちょっとした台詞やディティールが、映画に現実味をもたせてくれている。例えば空腹に耐えられなくなった良太がバイト先でチロルチョコや廃棄する弁当を手にする場面。セックスの最中に助産婦の母から教わった知識をつい口にする卓巳。特に里美がコスプレで現実を忘れようとする様子は、胸に突き刺さる場面ばかりだ。田畑智子は難役を実に自然に演じている。鏡にむかって魔女っ子ヒロインの変身ポーズを繰り返す場面は泣けた。変わりたい自分と今の状況。でも変わらない自分と現実。このあたりは、卓巳の視点と里美の視点から、時系列をバラした演出と編集が使われている。試みとしては面白いのだが、やや場面の順番がわかりづらかった。映画全体としては良太の場面もある訳で、ここだけ少し浮いた感じがしたのは否めない。
重苦しい雰囲気が続いた映画だが、厳しい現実を長尺で見せた後、少しだけ成長物語としての光明が差す。現実を変えようと勉強に打ち込み始める良太。夢中になった人妻との別れから現実と向かい合う勇気を持ち始める卓巳。里美も殻に閉じこもることを辞めて現実を受け入れる。世の中との接し方を人は傷つきながら学んでいく。この映画はその過程を刻んだ物語。多分、二度は観ない映画だろう。だけど心にひっかかり続ける映画であることは間違いないだろう。
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