■「マイノリティ・リポート/Minority Report」(2002年・アメリカ)
監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=トム・クルーズ コリン・ファレル マックス・フォン・シドー
かつて「ジュラシック・パーク」観たときに、”これって「ジョーズ」の頃の演出を思わせるよなぁ”と嬉しく思った。今回の「マイノリティ・リポート」は、過去のスピルバーグ映画では「インディ・ジョーンズ」に近いと思った。サスペンスの中にユーモアを巧みに織り込む演出が随所にみられる。昔から思うことだけど、スピルバーグはこれが本当にうまい。例えばスラム街のアパートで追跡メカ”スパイダー”が出てくる場面。ハラハラするところなんだけど、しっかり笑いも誘っていたりして、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」冒頭の上海の場面を思い出させる。一方で90年代の人間ドラマ路線もしっかり”親子愛”や”家族の再生”というストーリーで引き継がれている。よく言えば”スピルバーグ演出の集大成”(大袈裟だけど・笑)なんだけど、悪く言えば”みんなが期待するスピルバーグ”がきちんとみられる”予定調和”でしかないんだよねぇ。ロバート・レッドフォードに三枚目や悪役をやらせないハリウッドスタイルそのまんま。そういう意味ではヒットするでしょうね。絶対面白いし。
時代考証がうまい。50年後の未来だから極端に今と生活様式が異ならないはず。そこはリアリティを感じられるようにきちんと考えられている。ここは見事。配役ではマックス・フォン・シドーが誰よりも素晴らしかった。こういう凄みのある役柄は久々。「コンドル」を思わせるし。そして謎の女性にジェシカ・ハーパーですよぉ!。トム・クルーズはマスクこそかぶらないけど、眼球を替えて他人になりすますんだから、映画ファンなら「ファントム・オブ・パラダイス」を頭の中で勝手に関連づけしてるかも。
P・K・ディック原作の映画化といえば「ブレードランナー」や「トータル・リコール」があるけれど、本作も含めて共通しているのは、自分自身を見つめる視線だ。レプリたちが自分の存在意義を考えたり、シュワちゃんが自分を取り戻そうとしたり。どちらも原作とはかけ離れた話になっているようだけども。そしてこの「マイノリティ・レポート」も然り。自分の未来は自分の意志で変えられる、自分をしっかり持つことだ、といったポジティブなハリウッド映画らしいお話なのだ。「A.I.」より面白いと世間では言われているみたい。それは認める。だってトムと仕事したくて仕方なかったスピルバーグが、エンターテイメント色全開にした娯楽作だから面白いのは当然。そもそも「A.I.」はキューブリック企画の引継だし、キューブリックのクールさとスピルバーグのウォームさが混じり合った中途半端なぬるま湯映画なんだから、比べてはいけないと思うんですけどねぇ、個人的には(「A.I.」擁護派)。
(2002年筆)