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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

オブリビオン

2013-06-15 | 映画(あ行)

■「オブリビオン/Oblivion」(2013年・アメリカ)

監督=ジョセフ・コシンスキー
主演=トム・クルーズ オルガ・キュリレンコ モーガン・フリーマン

「エイリアン」シリーズとトム・クルーズ主演作は「嫌い!」と公言しているくせに・・・どちらもついつい劇場で観るんだよね、これが。「オブリビオン」の予告編を観たときは、またトムがええかっこしいするだけの映画かぁ・・といつものように思った。それは間違いではなかったが、すぐにトムがどうでもよくなるくらいに面白くなってきた。それはこの映画の世界観と造形の面白さ。「オブリビオン」は、「猿の惑星 創世記(ジェネシス)」のスタッフと「トロン:レガシー」の監督の手による映画だ。エイリアンの襲撃から60年経った地球という「オブリビオン」の設定は、70年代によくあった絶望的未来を描いたSF映画の世界観と重なる。僕が映画に興味をもち始めた時期に観たSF映画は、どれも人類の破滅だの機械との戦いだのそんなエピソードが散りばめられたものだった。「アンドロメダ・・・ 」や「ウエストワールド」などマイケル・クライトン関係作、絶望的な世界観の代表格「猿の惑星」シリーズ、食糧問題を扱った衝撃作「ソイレントグリーン」、太陽の向こう側にある未知の惑星をめぐる衝撃作「決死圏SOS宇宙船」などなど、「スターウォーズ」以前のSF映画に描かれるのは輝かしい人類の未来ではなく、未知なるものへの恐れをSFの題材に形を変えたダークな味わいがあった。

そして主人公が知ることになる事実。それは政治が隠してきたものだったり、信じてきたものが崩れ去るものだったり。「オブリビオン」が提示するどんでん返しはまさにそこだ。・・・この映画はストーリーを語るとほぼネタバレしてしまうことになるので、今回は曖昧な表現に逃げておくことにする。

「オブリビオン」がもつ70年代SF映画的な舞台を思わせることだけが、魅力的なのではない。それは造形の面白さだ。地球を監視する任務を負って、主人公ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)とチームを組むヴィクトリア(アンドレア・ライズブロー)が暮らすスカイタワーと呼ばれる居住空間。ちょっと無機質な感じがする内部の様子は、それこそ昔のSF映画で観たようなどこか懐かしい印象を受ける。2人乗りのパトロール機バブルシップが発着するポートや、透明な素材で囲まれた室内やプール。そして360度コクピットが回転するバブルシップも魅力的。コシンスキー監督は大学で建築や機械工学デザインを学び、現在もコロンビア大学で助教授の籍をもつ。なので、ド派手なSFXで観客を驚かすよりも舞台となる空間で説得力をもたせることに力が注がれているのは間違いない。そのため、僕らは一気にその世界観を受け入れることができる。これが金をかけて映画を撮るということだ。「オブリビオン」を観たら、四畳半の艦橋と倉庫に二段ベッド置いたような実写版「ヤマト」なんか二度と観る気にならないだろう。対照的だが、主人公が人間性を取り戻す湖畔の家がまたいい。古びたレコードプレイヤーで聴くプロコルハルムの「青い影」には完全にヤラれた。廃墟となった地球の様子やエンパイアステートビルの造形も凝っているし、往年の作品達へのオマージュととれる場面もちらほら。

ストーリーに触れずにこの映画の面白さを伝えるのは難しい。最後に付け加えるならば、タイトルが実に潔い。「Oblivion」=「忘却」。それは任務に就く前に記憶を消されてしまった主人公二人の「忘却」であり、二人が信じ込まされた事実が現実を覆い隠してしまっていることの「忘却」。そして物語はその「忘却」の中でも失いきれない気持ちや思いがあることを一筋の光として描いていく。70年代以前のSF映画は、時に政治的な恐怖感をストレートに表現せずに、侵略SFの体裁を借りて表現してきた(例えばSFホラー映画「光る眼」は冷戦下での社会主義国の脅威を暗示したものである)。プロデューサーや監督にそうした目論見があるならば、この物語は僕らに"現実に目を向けろ"というメッセージを放っているのかもしれない。まぁ、そこは深読みかもしれないが。

ともかく、あなたが輝かしい未来を描いた、トム・クルーズが大活躍するSF映画が観たいならば、この映画はお気に召さないことだろう。だけど、ここにはSF映画への愛と、苦難があっても未来を信じる気持ちがある。それがこの映画の核心。あとは自分の目で確かめるのだ。




コメント (2)
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