■「ボウリング・フォー・コロンバイン/Bowling For Columbine」(2002年・カナダ)
●2003年アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞
●2002年カンヌ映画祭 55年記念特別賞
●2002年ナショナル・ボード・オブ・レビュー 長編ドキュメンタリー賞
監督=マイケル・ムーア
主演=マイケル・ムーア マリリン・マンソン チャールトン・ヘストン
アポなし突撃取材がモットーのマイケル・ムーア監督が、コロンバイン高校の惨劇からアメリカの銃をめぐる現状を鋭くえぐるドキュメンタリー映画の傑作。オスカー授賞式の「ブッシュ恥を知れ!」発言は忘れられないよなぁ。何がすごいかって、お堅いドキュメンタリー番組とは違って、結果として徹底したエンターテイメントに仕上がっていることだ。アメリカでは銃で殺された人数が桁外れに多い。この現状を、世間は政治やバイオレンス映画、ゲームやサブカルチャー、血塗られた歴史のせいにする。でも劇中マリリン・マンソンも言うように、そうしたもののせいにする方が楽だからだ。それでは何も解決しない。ムーア監督はこの映画の中で、銃犯罪が多い原因を”恐怖”と結論づける。
事件を表面的にしか追いかけないマスコミのあり方もムーアは批判し、コロンバイン事件の周辺まで丹念に追いかけていく。一歩間違うと、銃規制を声高に訴える怒りに満ちた映画になりそうな題材だけど、ムーア監督は感情的にならずにひたすら「なぜ?」を突きつけ続ける。本当は怒りに満ちているのにね。それを独特のユーモアで描いていく。でも決してこの問題をムーアはブラックユーモアで笑い飛ばそうとはしていない。その姿勢が重要だ。チャールトン・ヘストンがムーアの質問に逃げ出してしまうラストは、見ていてすごく悲しく空しい場面だ。銃を手にすることを叫ぶ人が銃を手にする理由を答えられない。しかもそれがかつてモーゼを演じた俳優ってのが泣かせるじゃないか。それが現実なのだ。
この映画を観て知る現実。確かに誇張してはいるだろうから鵜呑みにはできないけどね。でもこの映画観ることで、銃の問題をみんなが考えるきっかけになるならそれは重要なことだ。驚くべき現実は次々と映し出されていく。ロッキード社の方の発言も印象的だ。「ミサイルは人を殺す道具ではない。我々を守るためにある。」矛盾を感じないのだろうか。それとも観ている僕が、徴兵制度がない奇跡的な国、ニッポン人だからそう思うのだろうか。マリリン・マンソンが”恐怖をあおる社会”について語る場面には正直驚いた。怖いこと歌っているだけじゃないのね。マンソンを見直したよ、ホント。ところでルイ・アームストロングの What A Wonderful World をバックに人類の血塗られた歴史が映し出される場面に、僕は涙した。10数年前に「グッドモーニング、ベトナム」で同じ曲が使われた。ベトナムの村が爆弾で焼き尽くされる場面のバックに流されたのだ。あの時も僕は泣いた。本当に”素晴らしい世界”が来ることを銀幕を見つめながら心から祈ったもんだ。でもまだ人類は何にも変わっちゃいないのだ。
(2004年筆)
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