エッセイストの森下典子原作の映画「日日是好日(ニチニチコレコウジツ)」を観る。監督は麿赤兒(マロアカジ)の長男・大森立嗣(タツシ)だ。舞台は茶室という狭い空間から見た女性の半生・成長物語だ。ヒロインの黒木華の所作が期待通り秀逸だ。映画の公開前にお茶の師匠役の樹木希林が亡くなったが、その存在感はやはり圧巻だ。今にしてみれば、死と闘っていた鬼気迫る演技だったことが伝わってくる。
見どころは茶室の素材、茶わん・釜・茶杓などの茶道具の数々、季節ごとの掛軸・生け花・和菓子・季節の庭の風景などに眼を奪われる。それも四季ではなく「二十四節気」の微妙な自然の移ろいを描き出している。美術スタッフの意気込みが随所に垣間見える。和服の美しさも見どころの一つだ。
主人公役の黒木華が青春をフツーに生きてきたが、友人役の行動的で華やかな多部未華子から茶道に誘われて、なんとなく教室に通い始める。就職・失恋・父の死・マンネリなどもありながらも、お茶・自然という世界から自分を見つめなおし、凛とした女性に成長していく姿を好演している。
小さいころつまらなかったフェリーニの「道」が大人になってやっと人生のはかなさに共感する自分があると言わしめた台詞のとおり、世の中には「すぐわかるもの」と「すぐわからないもの」の二種類があると提起している。また、映画では茶道の所作・「形」には意味があるようだとしているが、それはいまだに疑問だ。まさにフェリーニの事例なのかもしれないが、いつかわかるものかもしれない。