前田哲監督の映画「そして バトンは渡された」を観た。主人公の優子を演じた永野芽郁(メイ)は主演女優賞(2022年、日本アカデミー賞)を得るほどの好演を見せた。血のつながりのない親の間をリレーされ、4回も名字が変わった優子の心の葛藤とそれを前向きに達観しながらゴールに至るドラマだった。(画像はmoviecollectionjpから)
画像下の左が、優子を友達のように愛してくれた義理のママ梨花(石原さとみ)、その中央が実父だが海外出張で疎遠になった水戸さん(大森南朋)、その右が、金持ちだが懐深く優子と梨花をを支援してきた泉ヶ原さん(市村正親)。
そして画像上の左が、親にいくども翻弄されバトンとなった主人公の優子(永野芽郁)、最終のパパとなった軽やかな森宮さん(田中圭)、ピアノで結ばれた優子の彼・早瀬くん(岡田健史)。(画像はpopsceneから)
とりわけ、夫からすぐ離婚してしまう自由奔放に見える石原さとみの役割と演技がキーポイントだった。腹立たしい彼女の軽はずみな行動は病没後その意味と愛情が明かされていく。それと対照的な凡人ぽい森宮さんの安定感が優子を支えてバランスを取っている作者の意図が素晴らしい。
映画は涙が出そうになった感動的な終わり方だった。さっそく、原作・瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文芸春秋、2020.9)を取り寄せて読む。小説は学園生活が大半だったのが映画と違うが、映画ではしっかり趣旨を効果的に映像化されていた。
小説では冒頭に「困った。全然不幸ではないのだ。」で始まったが、その意味が全編に貫くのがわかった。心折れそうになっても周りの親たちの愛情をしっかり受け継ぎ、「笑っていればラッキーは転がり込んでくる」との梨花の言葉を大切にして壁を乗り越えてきた優子の姿勢が小気味いい。
そして、著者はエピローグに「本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。あの日決めた覚悟が、ここへ連れてきてくれた。」と結んだ。軽いタッチの描写展開だったがなかなかどうして洞察が深い。