体調不良を訴え始めたのは9月初め。普段よりやや厳しい腹痛からのスタートであった。
日ごろからあまり痛みを訴えない山の神にしては、少し気弱な表情ではあった。「夏バテが出たんかねー」などと割と気軽に構えていた。
段々自覚症状に厳しさが増してきて、新たに開業したクリニックで胃の内視鏡検査を自ら申し込んでいた。
特に異常なしの診断後、自覚症状の不気味さが収まらず、今度は大腸がん内視鏡検査をおこなった。こちらも特に所見なし。
どちらかというと、少々のことでは弱みを見せない元気ジルシ。そんなカミさんが、自らこれほどの病院遍歴をすること自体異常であることにもっと早く気付いてしかるべきであった。
2月に行った定期健診では異常がなかったが、今一度血液検査を中心に健診をしてもらった。そこで驚くほどの異常値が示された。部位が部位だけにいささかうろたえた。「〇〇がん」の疑いで緊急CT検査。更に詳細検査のためMRI検査。と続いた。
「な~~に、大丈夫だろう」などと、何の根拠もない空威張りが、時間の経過と共に段々しぼんでいく。
CT検査の説明の時も、今日のMRI検査の説明も、テープレコーダーの如く、医師の言葉を一言一句洩らさぬように聞き耳を立てた。こちらの心配が大きければ大きいほど、医師の言葉は大きく胸に刺さる。
「最終的には、すい臓がんも胆管の異常もありません。引き続き自覚症状の変化に注意しながら健康生活を」というお墨付きを頂いた。
もちろん、血液検査の異常値対策はこれからが本番である。何一つ油断できる状態でないことは認める。
しかし、ようやく虎口は脱したのである。命の縮む思いから半分解放された。
残り半分は、普通の生活をする中で、血液の検査値を正常に戻すことである。今までより目を光らせる必要がありそう。
それにしても、ホッと一息。病院の帰り道、隠れた紅葉の名所「岩国もみじ谷公園」を通りかかった。
「・・・・・・もみじのにしき 神のまにまに」 百人一首の一節を思い出した。
『このたびは ぬさもとりあえず手向け山 紅葉のにしき 神のまにまに』。気持ちの奥に漂う祝いの気持ちに、錦織りなす紅葉が花を添えてくれた気分であった。
さて次は、体調不良で臥せる友の完全回復を祈り、今を見ごろの紅葉を話のタネにお見舞いをしよう。