早起きの効能(その1)
三月も末近くなり、山の畑に行く農道も何時の間にか除雪車により開けられた。
雪に覆われた道を割ったばかりは、まだ一メートルを超える残雪だった。
ようやく「マンサク」の花も開き始め、可憐な姿を見せてくれる。
つい先日まで、暗い中の散歩だったが、ようやく日も長くなり、
早朝の散歩も明るい道を歩ける様になって来ている。
文字通り「春は曙」の気分を満喫しつつ、犬のマックスを連れての散歩に励む。
早足で一時間近くも山道を歩くと結構汗ばむ。
先日は、思わぬ珍客に遭遇した。山道にかかり、前方を見るとなにやら黒っぽいボール状の物体がある。
誰か子供たちでも遊びに来て、バスケットのボールでも忘れていったのかなと思った。
しかしその丸い物体は、近付いたマックスの鼻息を聞きつけたのか、むくむくと動き始めた。
茶釜こそ背負ってはいないが、紛う事無き狸であった。
なんと春の晴れた陽気に誘われ、道の真ん中で毛繕いをしていたのだ。
マックスと私に驚いたその狸(結構若いと見た。)は不器用に走り、雪の壁からの上り口を捜す。
やがて杉の木の下の、やや雪の少ない場所を見つけ、林の中へと逃げ込んだ。
マックスはと言えば、「殿中松の廊下」状態。ハーネスをちぎらんばかりに、いきり立ち後足で立ち上がり吠える。
ようやくなだめ、散歩を再開した。JRの線路からは数百メートルの場所である。
誰でも経験しそうな事ではあるが、実は経験者は少ない。
誰よりも早く、起きだし誰よりも早く山道に入らなければならない。
誰かが先行したら、それで野生の、夢のような空気は消え去り、喧騒の世界に戻ってしまうのだ。
ほかにもリスを見かけたり、樹上の大きなテンを見つけたりもした。養鯉池で憩うオシドリの夫婦を見かけたりもする。
生き物大好き、野生大好きの私にはたまらない面白さと、そしてきっと健康を、早起きはもたらせてくれる。
(続く)
(まだマックスが元気に暮らしていた何年か前に書いたものです。)