畑に吹く風

 春の雪消えから、初雪が降るまで夫婦二人で自然豊かな山の畑へと通います。

連載35『岩魚』(その4)終わり

2015-09-07 04:13:05 | 暮らし

 釣りの仕掛けを調整し、付けているのが若き日のスベルべ。
ヘルメットを冠ったかのような、黒々と厚い髪の毛が懐かしい(笑)。



 放浪者風の帽子姿がスベルべ。
大きな荷物を背負った友は、その後越後三山縦走中に転落死してしまう。


    「岩魚」

 女性と挨拶を交わすと、「こんなゼンマイ小屋なんて、初めてでしょう、
中でお茶でも飲みますか」と言われたが「ありがとうございます。
でもこんなにズボンが濡れていますから」と断ると「それじゃ、玄関口でどうぞ」と招き入れられた。

 滅多に訪れない珍客に女性は饒舌に語ってくれる。住まいはすぐ下の集落で、
小学生の子供達を義父母に面倒を見て貰いながら、夫婦で小屋に寝泊まりしてゼンマイを採っていると言い、
「土曜日になると子供達が尾根を越えて小屋に泊まりに来る」と、嬉しそうに話す。

 話しを続けている最中に「ホーイホーイ」と、呼び声が聞こえてきた。
女性は話しを中断し「ホーイホーイ」と呼応する。

 やがて、「カチンカチン」と金カンジキの音を立てながら、ゼンマイを沢山背負った男性が姿を現した。
誰もいない山中でお互いを呼ぶ夫婦の声の掛け合いに微笑ましさを感じさせられた。

 その後、私も岩魚釣りは止めてしまって、長い年月が流れた。
今では小屋を掛けてゼンマイ採りをする人など居なくなった事だろう。
そして、あの時は随分年寄りにも見えた夫婦だったけれども、子供が小学生だと言うことは若かったのだと、
今になって思う。
 私も、そんな時代からあの夫婦たちの年齢をとうに越える事となってしまった。

              (終わり)

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