夢見るババアの雑談室

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ほぼ身辺雑記です

「たわけ島異変」ー2ー

2009-05-01 17:01:47 | 自作の小説

「花散らしの雨にしては 降り過ぎだ」台風のような風雨が治まり小雨に落ち着いてきた午後 阿釶埜真(あなたの まこと)は呟いた

警報伴う季節外れの嵐の為 始まったばかりの高校も休みになった

散らかった外片付けに ゴミ袋を三つばかしに箒とチリトリ提げている

店の前から船着き場までを綺麗にするのは男の仕事と 三代の女達から仕込まれている

「せっかく学校が休みなんだから 時間を有効に使いなさい」

真は海を見るのは嫌いでなかった

荒れた後の海の表情はまたいい

あいた時間があれば スケッチに行こうと楽しみにしている

真は働き者なのだった

女達に囲まれ そうならざるを得なかった

それに人から なんていいコやろーと褒められるのは気持ちがいい

なまじっか生まれてからずっと顔の造作に恵まれているものだから 女のコ達からは「みんなの真くん」と呼ばれてきた

浅く日焼けし あくどくない程度の爽やかさ

友人達から浮かない程度の剽軽さ

あいつは いい奴さーと言わない人間は 随分ひねくれ者に見えてしまう

海を見ていた真は妙な乗り物に気が付いた

黒い楕円形のー一体あれは何だろう
海にある以上 船の一種なんだろうか

真は見たことがなかった

見ていると その黒い楕円形は卵を産んだ

ぷくぷくと丸い形のものが水面に浮かび上がってくる

上三分の一がぱかっと開いた

びょんころ びょんころと進んでくる

船着き場まで来たら下りてきたのは 真の死んだはずの父親だった

記憶にあるより色白になっている

足があるから幽霊ではないようだ

真は下腹に力入れ 確認の声をかけた

「この島にどういうご用ですか?」

真の父親とおぼしきそっくりさんは 真をざざっと眺め 「わからん」と答えた

父親を乗せてきた丸い乗り物は 黒い乗り物の傍まで進み水中に消えた

黒い乗り物も奥へ出て行く

怪しすぎる

更に陽気珍妙な歌声が流れてきた

わしらは海底人 陽気な海底人
呑気に海底 散歩する ほほいのほい ほほいのほい

わしらは海底人 わしらは海底人

歌声と共に海から ずぶ濡れ団体様が上がってきた

先頭の男は 明るく「やあ!」と声をかけてくる

真は念の為に質問した「あんた達 誰?」

「全く怪しくないただの観光客だんべ
良いお天気だから泳いでたさね」

春とは言えまだ海は冷たい

真はこのずぶ濡れ集団に尋ねた
「宿泊先は?」

「これから決めるんだんべ」

「そりゃ運がいい」真はニッコリした
「うちは観光案内もしている
宿のバスに迎えに来て貰おう」

真はずぶ濡れ団体の頭数を数えながら 旅館に電話した

客を紹介したら ささやかながら謝礼が入るのだ

世の中は持ちつ持たれつである

客の素姓は迷惑かからない限り考えないことにした

それよりさっきの父親もどきである

走り出す真の後ろ姿に ずぶ濡れ団体は「美形だ」と呟いた

真の母親が準備中の店へ父親もどきでは向かっていた

煮物の匂いにつられたのだろうか

がらりと店の戸が開いた

立つ男の姿に 真の母親 桃子さんの表情が変わった

「なおれ! そこな怨霊」

慌てて真が割って入る「お母さん これは生きてます」

「丁度いいわ 戸籍の上では死んでいるのですもの
間違いは正さねば」

空気を読まず真の父親そっくりさんは言う

「美しい方 わたしはお腹が空いています」
そう言って倒れてしまう

桃子さんは慌てなかった 「得意芸なのよ 初めて会った時もー貴女は美し過ぎるーって倒れたの」

放っておけば勝手に起きるわーと動じない桃子さんは料理仕上げに店内に戻る

逃げないように見張ってなさいと言い残して

あれが死んだと思っていた夫が帰ってきた妻のとる態度だろうか

イネばあさんが出てきて倒れた男の耳をつまみ引きずっていく

真は身内ながら 女達の強さに目を見張る

そして逆らうのは止めようと固く固く決意するのだった

(「たわけ島異変」-1-」は↓をクリック 読んで頂けると嬉しいです)

http://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/d/20090410