喬二の兄までが行方不明になっていると知ると 住職はひどく気の毒そうな顔になった
更に付近で起きている人が消える話になるとー
「数珠も効かぬとなるとなぁ」
土産の駅弁を見せると住職自らお茶をいれる
墓地でない方の庭を見ながら食べることになった
食べ終わると住職は 「帰り道は暗くなろう
泊まっていかれぬか」
そう二人に勧めた
布団の準備も済んだところで 腰を据えて住職は話し始めた
「確かにタチの良くない いわゆるあやかしのようなものがいる
すみかに何らかの方法で呼び寄せ引きずり込むようだ
それも好みがあるらしく
若く美しい人間をな好むようだ」
しかし正体となると住職は見たことなく想像つかないのだと言う
あやかし
それは一体どういうものなのだろう
寺の中には よく見るとあちこちに何かの護符かお札のようなものが貼られている
山見理枝子は少し後悔をしていた
用意してくれた風呂に入るのも薄気味悪く窓も開けず ただ急いで体を洗い 湯を被って上がる
部屋で一人眠るのも恐ろしい気がした
かと言って さして面識ない泊 喬二と同じ部屋で眠るのも何か勘違いされそうで躊躇われた
理枝子はやや喬二にときめいていて微妙な女心が 多少の意地も見栄も張らせるのだ
正体が解らないモノ
一体それはー
眠るまいと 思ううち いつしか理枝子は眠りこんでしまったようだった
ずずず・・・ずず・・・
枕の横を何かが這ったようで目が覚めた
声が聞こえる
妙に秘密めいて艶めいたー一体ー
起き上がり 廊下に出て ふらふら進んだ理枝子は 悲鳴を上げそうになる口を両手で押さえた
女が住職の体の上にいる
ぐっと上体を反らし 時に住職に重なり白い裸身が揺れる
住職は呻くような声を漏らし続けている
「気持ち良いかえ? これをずうっと続けて欲しいかえ」
女の赤い唇は 住職の体の上をなまめかしく這った
「じ・・・じらさんでくれ
頼む」
とんだ生臭さ坊主
女が通って来ているのだと 理枝子は最初思った
しかし
「頼む 吸ってくれ 噛んでくれ あの痺れる感じが儂はー」
「ほんに呆れた住職様じゃ こうかえ それとも こう」
女の口から血が滴る
「お前様の血はまずいわな」
「また若い男を喰うのか」
住職の声が濁る
「焼き餅かえ 口直しせねばなぁ」
女は笑いながら 一際激しく動いてみせた
「たまには人間の女も抱いてみては どうじゃ
我らが 男を頂いている間 寂しかろう
あの娘 なかなか良い体をしておったわ
胸から腰の張り具合
何より若い
責め甲斐もありそうじゃ」
ぞっとした
女は人ではないのだ
女こそ アヤカシ
逃げなければと理枝子は思った
喬二を起こし 何とか何とか逃げなくては
その理枝子の背に声がかかる
「お待ち・・・見ていたね いけない娘だ
お仕置きしてあげよう」
全裸の女は いつのまにか理枝子の背後に重なるように立っていた
ぎゅっと下から理枝子の乳房を持ち上げるように握り締める
器用に親指に中指と人差し指の三本の指の腹で 理枝子の胸の先を摘むようにして揉み その先端を刺激する
「あ・・・や・・・」
嫌なのにおぞましいのに理枝子の体から力が抜けていく
「このままでは体が切なかろう
住職が楽にしてくれるゆえに
大丈夫 怖くはないぞえ
極楽を見せて貰うと良いわ」
ほほ・・・と笑うと女は理枝子の耳たぶの下をきゅっと噛んだ
痺れが全身に走り理枝子は動けなくなる
「いや いや」僅かに首を振る理枝子の体にごつい住職の指が触れてきた
「酒にな睡眠薬をたっぷりと入れた 喬二は起きない
起きない方が幸せでもある
あいつらは男好きでな
食事としても男を好むのよ
極楽も味合わせてくれるが
それにな 喜べ
儂は人間じゃ
恐ろしければ目を閉じているが良い
じきに良い心地になれようほどに」
床一面を蜘蛛が這っている
お札の文字はあれは 字ではない
蜘蛛だったのだ
ぞろぞろ ぞろぞろ
全裸の女は蜘蛛を落としながら 蜘蛛を従え廊下を進んで行く
理枝子は住職の布団へ引きずられながら絶望に沈んでいった
布団の周囲には やはり小さな蜘蛛がわらわらといる
「ご飯 ご飯 住職さんが遊び終わったら くれる
ご飯 ご飯 嬉しいな」
理枝子は自分が住職に犯され尽くした後 この蜘蛛達に喰われるのだと知り慄然とした
その頃 喬二は夢の中で 凄まじい快感に襲われていた
「やれ嬉しや なんと良き体じゃ
またたんと子を産めると言うもの
己の子の為になるのじゃ
今度は その血を身をおくれ」
痛みが拡がる
絶叫しようとした口に女の唇が重ねられた
何かが口の中に入ってくる 喉を奥へと進む
体がその何かでいっぱいになる
「人は面白い生き物じゃ
次から次へ餌となりにやってくるのだもの」
それが喬二の意識が最期に聞いた言葉だった
しかし彼には もう理解することができない
その後まもなくパソコンであるサイトを見ながら こんな会話をする声が
「これ 本当かな
随分いなくなった人間がいるって」
「どうだろ」
「面白そうじゃん 行ってみようよ」
さて彼らは どうなるのであろうか
蜘蛛達は網を張り 静かに餌が訪れるのを待っている
(「絡まる・・・」-1-は↓のアドレスにあります 読んで頂けると嬉しいです)
http://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/d/20090505