夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「霧道谷にて」ー11ー悟

2009-05-24 21:56:42 | 自作の小説

一番大人しいと見えた琴子さんが その場を仕切っていた

巧みに会話の流れを操っている

それにはるみさんも香夜美さんも呑まれているのだった

職業は保母
子供の注意を引き付けてー相手が子供なら慣れているのだろうが

魚から人魚 また人間に戻った香夜美さん

この事をどう受け止めればいいのか

一度壊れた香夜美さんを 琴子さんが人間に引き戻した事になるのか

だが 目の前にいるこの美しい女性が人間でないとは言えない

となれば 後は はるみさんが 有沢聡一が どう折り合いをつけるか

「君は自分が人としての姿を保てなくなることが心配なのか
もしや陽一が人間でなくなるかもと」

再度 念を押すように有沢が繰り返す

「僕はさっき君が荒れる天気を鎮めようとするのを見た
同じ光景を昔 見たことがある
そういう力を持つのは 君達だけじゃない
気にすることは 無いんだ
そういう力はお守りとして 大事な時に使えるように仕舞っておけばいい

コントロールできるようになる

大丈夫だ」

有沢と琴子さんは目と目で会話していた

この兄妹にも何かあるのだろう

「あなた・・・」
涙を流すはるみさんを有沢はしっかり受け止めていた

それを見る香夜美さんはひどく辛そうだ

ああ この人は もしや義兄になる有沢聡一を愛してしまったのか

それゆえに恋が叶わぬと思いつめ 鬼となったのか

琴子さんは気付いている

はるみさんも薄々と

そういうことなのか?!

どうしても自分のものにはならない男

勝てない存在と思える姉

自分の理不尽 我が儘を知り それでも抑えられない心

陽一君が自分の産んだ子であれば

叶わないなら いっそ いっそと

その激しい気持ち

それを琴子さんは言葉でコントロールしようとしている

「田舎暮らしが嫌になったら 遊びに来ればいいじゃない

陽一の学校や聡一さんの仕事があるから わたしはまだここには住めないけど
でも夏休み 子供が遊ぶには ここは自然がいっぱいでいい場所よ」

はるみさんが姉輝世野としての言葉を香夜美さんに向けた

香夜美さんははるみさんに直接の言葉は向けられなかったが 琴子さんに向かって「合コンね」と小さな声で呟く

精一杯の冗談のつもりだったのだろう

「そう 合コンよ
一緒に買物にも行きましょう
美容院行って エステもね 」

で 琴子さんは 俺に声かけた

「香夜美さんを送って行くの
一緒に来て貰えません?」

くるくる動く大きな瞳

実に不思議な女性

強いのか弱いのか

香夜美さんを送っていく間 琴子さんは職場の子供達のこと お気に入りの店のこと 楽しい話題を選んで話していた

ただ 別れ際「きっと会いに出てきてくださいね 出にくかったら 私が迎えにきます」はっきりと琴子さんは言った

少し歩いたあと 「今日は色々と有難うございました」

几帳面に頭を下げる

こちらは惚れた弱みで何も聞けなくなる

ここで君が好きだから気にしなくていいんだーと言えるほど厚かましい男じゃない

仕事ですーともとぼけられない

言いたい一番のことが言えず 聞けずに 有沢とはるみさんのいる家の前へたどり着いてしまう

有沢が家の前で待っていた

「倉元さん 有難うございました ちょっとだけ 妹と話したいのですが」

気になる ひどく気になる

俺は随分さもしいことをした

少し離れて 兄妹の会話を盗み聞いたのだ

坂を降り 車を停めた場所近くまで行って 初めて有沢は口を開いた

「思い出したのか」

「ん・・・ あの海は決定的だった」

「お前が気にすることはない お前は頑張ったんだ」

「私に力があれば! どんなに頑張っても止められなかったの」

有沢は妹を抱きしめた

「お前は小さかった 勝てなくて無理はない あの人は一番力を持っていたんだ 

お前が頑張ってくれたからこそ あの人は お前を認め 俺達だけでも見逃してくれたのさ」

「でも私達以外は あの人も みんな みんな沈んでしまった」

「あの人はね 好きだった男を ある実験に使われてしまった それで とうとう心が壊れたんだ

何もかも無くなればいいーその一心に固まってしまった 

忘れたままならいいと思っていたよ  俺達は最後の生き残り 」

「だからね 私 ここは守りたいの 新しい故郷にしたいの  それはいけないこと?」

「いや この世に存在する限り 存在し続ける権利はある  世間の常識や法律外の存在であれ  何もかも法律で善悪を判断できるというのは 危険な驕りだと思っているさ」

兄と妹は暫く無言でいた

そして有沢は「お前の気持ちが ここの人達に 何より香夜美さんに伝わるといいな」

そう言って はるみさんのいる家へ向かう

俺はどうしたものか思いつかず動けずにいた

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http://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/d/20090524


中華屋さんで

2009-05-24 15:43:34 | 子供のこと身辺雑記

中華屋さんで
中華屋さんで
中華屋さんで
長男の用事が終わり 食事して帰ることに
留守番の娘にメールを入れた

テイクアウトは何がいい?

娘の返事「酢豚」

で 次に他に食べたいの無い?って 送ったら

「分からない」
でした

娘は酢豚が好きなのですが
日頃は しつこい料理は苦手なんて言っています

写真は 長男も好きな酢豚

フカヒレスープ
ワンタン麺など


「霧道谷にて」-10-輝世野(はるみ)

2009-05-24 00:27:32 | 自作の小説

実質 陽一を取り戻してくれたのは 夫 聡一の妹の琴子さんだった

あの妹が琴子さんの言葉にひどく大人しくなりーそれは不思議なほどだった

幸い陽一は何があったのか覚えてなくて

わたしは風呂に入れ着替えさせ 妹の世話を焼く琴子さんを見ながら
やはりわたしが着替え終わるのを待つ夫にどう説明したものか 考えていた

わたし自身 忘れていた色々なこと

記憶が無かった間の事とは言え わたしは 夫を騙したも同じ

わたしが何者か知っていたら 夫はわたしを愛してはくれなかっただろう

わたしも異形

人間としての形をいつ失うか分からない

バランスが崩れ自分を喪(うしな)えば

人でいられなくなってしまう

妹のようには戻れないかもしれない

夫は陽一の世話をしながら黙って待っていた

近寄るのがとても怖い

自分はよく勝手が分からないからと 香夜美をせかして琴子さんは食事の支度を始める

「腹が減っては戦(いくさ)はできぬーと言うでしょ

まずはお腹いっぱいになってから

人間 空腹だとやたら悲観的になるし ろくな事を 考えないのですって」

「それは 単にお前が食いしん坊なだけだろう」と 聡一さんも軽口を叩く

黙って琴子さんを見守る探偵の倉元さんさ 少し心配そうだ

もしかして琴子さんに何らかの感情を抱いているのかもしれない

香夜美は無言で何かを刻んでいた

暫くして胃に優しい雑炊
野菜の炒めものなど ひどくあっさりした料理が ちゃぶ台に並べられた

「ああ美味しい お腹空いちゃった」
琴子さんの明るい声につられるように 陽一もお代わりを重ね
そのうちお腹いっぱいになったのか 眠ってしまった

食事が終わると 「後片付けは早いうちが楽~」と 琴子さんは明るく洗い始める

夫は妙に琴子さんを気にしているようでもあった

「どうして わたしを責めないの 誰も 何故? 怒って当たり前でしょう こんなのこんなの変よ おかしい」

「だって身内だもの 香夜美さん  身内は少々深刻な喧嘩をしても いつのまにか仲直りできてしまうものなのよ」

琴子さんの言葉に 香夜美は眦吊り上げた

「わたしのしたことは そんなふうに許されることじゃない 聡一さんも 倉元さんも変よ

わたしの姿を見たでしょう? わたしは普通の人間じゃない 普通じゃない」

「何を持って普通と言うの? 天才は?魔術師は? 人より優れた力を持っていることが

それは罪なの?

ただの個性じゃない」

「そんなの そんなのただの詭弁 子供騙しだわ」

ああ香夜美は妹は不安なのだと 恐ろしいのだと 妹の恐れはわたしも持っている

「わたしだって恐ろしかったわ ずっと怖かった いろんなことが明らかになるのが」

言葉は知らず口をついて出た

「わたしも壊れるかもしれない もし 陽一が何かに変化したらどうしようと・・・だから ここを離れるのに真剣になれなかった 思い出してからは尚更 もし自分の普通でないところを 聡一さんが気づいたらと」

「おねえさん・・・」

香夜美は まさかという表情でわたしを見ていた

「恐ろしいわよ 感情を爆発させたら どうなるんだろう 自分には何処までできるのか 何処まで人間でいられるのか」

「爆発しても 暴走しても 人間なのよ 香夜美さんを見たでしょう きちんと人間に戻れるの」

酷く自信ありげに琴子さんが話す

「何があっても 僕にとって君は はるみだ 僕の妻で 陽一の母親だ」

聡一さんが わたしをまっすぐに見て言う

わたしは泣きそうになる

「ねえ 香夜美さん あなたはとても美しいわ あなたが都会を歩いたらスカウトがついて回ると思う

あばたもエクボって言うでしょう 本当に好きになったら欠点も魅力に見えるって

あなたは人より劣っているんじゃない 優れているのよ そこを間違えないで

美しさは一つの才能なのよ 」

琴子さんの言葉には説得力がある 何かの力に満ちている

琴子さんは いたずらっぽく笑った

「男二人 兄と倉元さんにお願いして有望男子集めてもらって 合コンするのもいいわね」

どうしてそういう話になるのか 琴子さんが場を仕切っていた

「生きていくのは不安だけど たぶん帰れる場所があるのはいいことだと思うの 兄と私の故郷は湖底に沈んでもう無いのよ

ここはいい所だと思うわ

この場所でずっと一緒に暮らしてくれる そんな男性だって何処かにいる

香夜美さんのいいところに気づいて

生き方は自分で選べる 」

「でもわたしは わたしは 酷い人間なの」

「香夜美さんが そう思い込んでしまっているだけよ

陽一ちゃんを育てたのは・・・香夜美さんじゃない」

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http://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/d/20090522