ちょっと寂しかったバス停前に嬉しいお店ができた
「お茶碗屋さん」女主人なので何故だか入りやすい
朝 少し早めに出てモーニング食べて お昼用のサンドイッチまで作ってもらったりする
持ち帰りランチ回数券を買うと 10枚一綴りで11回目がタダになる
保温容器持参でドリンクサービス
一人暮らしのささやかな楽しみだ
疲れた仕事帰りに寄って夕飯も済ませることがある
日替わり定食が楽しい
気紛れな女主人は 作った料理を何種類か大皿に並べカウンターに置いていることもあり 季節で粕汁や メニューに無い料理が作ってあったりする
ショーケースには様々な食器が並んでいる
たまに気にいったのを買ったりする
休日に女主人が直接選んで仕入れてきた品なのだそうだ
女主人は優しい手触りの心がほっこりするような品が好きなのだと言った
私 私は 何が好きだったのだろう
働いてお給料もらって 毎日生きて
これは私の望んでいた生活なのだろうか
働かなくては生活できない
ちょっと美味しいもの食べて 時々身の回りの品を買って
私は何がしたかったのだろうか
いえ 私に何ができるのだろう
小さな時には大きくなったら当たり前のようにお嫁さんになれるーと思っていた
でも 誰の?
恋をするには相手がいる
臆病な私には見極められない
年ばかり重ねてしまって つまらない女になってしまっているかもしれない
男っ気がないと言えば この女主人もだった
綺麗な人なのに 誰かいるようには見えない
見えないだけでーいるんだろうか 恋人
常連客がかける冗談は適当にかわしているけれど
傘を忘れると雨が降る そんな法則があるようなー気がする
会社を出たら大雨だった
ひどいー
「お茶碗屋さん」へ駆け込んだ
もう下着までぐっしょりだ
女主人は目をまるくした「見事すぎる濡れっぷりね」
それから「予備の下着があるの こっちに来て」と初めてプライベートゾーンに 女主人の住居部分へ案内された
「良かったらお風呂も使って 趣味に合わないでしょうけど 少なくとも乾いているから」
全自動の洗濯機の使い方を簡単に説明し脱いだ服を洗うように勧めてくれる
親切なのだった
「風邪ひいちゃつまらないでしょう」
オレンジの香りの入浴剤が浴槽には入れてあった
気持ちよく温まり 有難くまだ袋に入っている下着を借りる すとんとしたワンピースも新品なのだった
「すみません あつかましく」
「良かったわ 役にたって」
と話したところに 客がいっぱい入ってきた
バスが運行休止になったらしい
一人で女主人は忙しそうだった「私 手伝わせてください」
「有難う!助かるわ そのドアの裏手にエプロンあるから使って 」
おしぼりは ここにーなどと簡単な説明をくれる
もう一人 時々見かける男性も手伝いを申し出た
警報が消えて バスが動き出すまで一時間かかった
客は少しずつ減っていく
「お疲れっさま!」女主人はミックスジュースとこの店で一番高いスペシャル定食を出してくれた
「助かりました 有難うございます お二人 さあ食べてくださいな」
「わあ!いただきます」
「恐縮です」
私と男性客が食べている間に女主人は他のテーブルやカウンターを拭く
ドアを開けて外の雨を確認した
「ああ だいぶ小降りになったわ」
女主人は乾いた服を袋に入れて手渡してくれた「予備に置いている着替えだから気にしないで 使ってもらえばいいから」
返さなくていいと言ってくれるのだった
「これだとバスは多いでしょうから」
手伝ってくれたお礼にと もう一人の男性客と私にタクシーを呼んでくれた