ダンスタンとロズモンドが部屋に食事を運んできた時には ベルナーとリトアールはファナクの話を聞き終えていた
最初は隠していたアクシナティの皇女だということも ファナクは話してしまっている
ベルナーとリトアールの人柄か それとも話術か
言葉が通じる 会話ができるという安心感か
将軍リシュウライこそログサール
かの領域を脱走した男
そしてアスザールの弟
「リシュウライは魔法使いなんだ」とだけ ベルナーはファナクに言った
傍らに立つリトアールに小声で言う「相手に自分の目を見させるだけで または声の抑揚だけで相手を自分の意に添わせる術もある」
そんな話をしているところにダンスタンとロズモンドが戻ってきてファナクにも料理を勧める
「良かったわ 言葉が通じるようにできて」
ファナクに話しかけたロズモンドはごくごく小さな声で尋ねた「体を拭きたくない? 私の服で良ければ着替えない」
自分より少し年上らしい異国の女性のとても優しい声と微笑み
ファナクはロズモンドをじっと見上げる
ーもし自分ならば こんなに優しくできるだろうか
よそ者の挙動不審の言葉も分からぬ闖入者
首を刎ねて終わりだ
普通はそういうもののはず
この国の人間はどうしてこれほど優しく振る舞えるのか
「いいわ ゆっくり食べていて 用意だけはしておくわね」
優しい表情のまま ファナクの傍を離れたロズモンドは ベルナーの所に行きこれからするつもりの事を話す
今度はリトアールがロズモンドについて部屋を出て行った
ダンスタン曰く「力仕事なら あっち(リトアール)」
小さな台所とドアでつながった隣が女官の身支度用の控えの間
洗濯用の桶や体を拭くお湯を入れる大き目の桶もある
そうした細々とした設備にも物珍しそうな目を向けるリトアール
台所でお湯を沸かし運び入れるロズモンドをリトアールも手伝う
「すみません 色々と」
「あなたもね 大変だ」
「これも私の仕事ですから」
明るく笑いかけるリトアールにロズモンドも笑顔を返す
用意ををしてベルナーの部屋に戻るとロズモンドはファナクは今夜ーと言ってももう朝が近いけれど自分の部屋に預かると言った
料理や飲み物や食器をまた台車に乗せて手際よく片付けると ファナクと一緒に部屋を出る
リトアールとダンスタンはそんなロズモンドとファナクを送ると またベルナーの部屋に戻ってきた
手早くロズモンドが盆の乗せてくれたささやかな飲み物と食べ物を持って
男達三人はベルナーの部屋で話が終わったあとそのまま眠った
おかげでリトアールの従者ゲイルドとダンスタンの従者オライスは随分焦ったのだけれど
自分の居室の寝台でファナクが眠りについたのを見届けてからーロズモンドは女官長で自分の母親のメリサンドに報告に行った
それからベルナーの様子を覗きに行って 雑魚寝状態の男達三人に目を見張る
それぞれに美しい容姿の青年達
リトアール王子にダンスタン王子にベルナー
ベルナー
ベルナーも真実の身分は ここレイダンドの王子
この国の真の継承者・・・・・
もう気安くベルナーなんて呼び捨てにしてはいけないのかもしれないと寂しく思いながら ロズモンドはそれぞれの体にそうっと寝具をかけて部屋を去った
漸く今になって眠気が襲ってきて寝椅子を自分の部屋の入口に移動させるとロズモンドはその上で眠った
ロズモンドの寝台で熟睡したファナクが昼近くに見たのは 長椅子で毛布だけ被って寝ているロズモンド
疲れ切っているけれど美しい女性(ひと)だとファナクは思った
見たことのない緑色の輝きを帯びた艶やかな栗色の髪
時々緑色が勝つ金色の瞳
濃く長い睫毛
夜 丁寧にファナクの体を拭いてくれた
ファナクが身の回りのことが余りできないのが分かっているかのようにー
丁寧で温かな世話
アクシナティでは幾人もが傅いてくれるけれど こんなに心のこもった世話をされたことは無かった
艶が出るまで髪を梳いてくれて
ファナクが安心して眠るまで小さな声で歌ってくれた
「大丈夫 きっとお国に帰れるわ」
見聞きしたことから自分より遥かに疲れていたのだろうに
ファナクは今迄の自分を恥じた
世話をしてもらえるのは当たり前だと思っていた
いや 世話をさせてあげているのだと・・・・・
それがレイダンドへ来る船の中での不自由で恐ろしい気持ち
レイダンドの国で 港から見える大きく美しい建物
それを目指して 人から隠れながら歩いて・・・・・
独りぼっちで言葉も通じなくて
何もできない 何も知らない自分に気づいて
引き換え このロズモンドという女性はどうだろう
病人の世話 料理 人への気遣い
どうして自分はこのように育たなかったのだろう
こんなふうに何でもできる人間になりたい
これまでの自分は最悪だった
我儘の威張りたがりや
してもらって当然という思い上がり
もしも もしも生きてアクシナティに戻れたら
もっと他人のことを思いやれる人間になろう
そう思いながら突っ立っているファナクの気配に気づいたか ロズモンドは目を開けた
「おはようございます よくおやすみになれましたか」
すぐに起き上がりだしておいた着替えの服をファナクに着付ける
「幸いにまだ袖を通していない服がありましたので 水色がとてもよくお似合いです
髪も少し結いましょうか」
ーお天気が良いからーと窓際に椅子を置き「できるまで外でも眺めていらして下さいね」と微笑む
髪を梳かしながら「よいおぐし(髪)ですこと」
三つ編みを幾つも作りくくっと止めて輪にしたところへ髪飾りをさしていき 後ろの半分の髪はそのままおろす
「これでいかがでしょ」と手鏡を見せてくれる
「少し待っていただければ着替えます」
眠る前に一本の三つ編みにしていたのをほどくと やや面倒くさげにリボンを編み込み そのリボンの端を結んで止めるとネットをかけて前髪だけしゃかしゃかと櫛で梳く
リボンの色が入った服に着替える
その早さにファナクは目を丸くした
「お待たせしました 順序が逆だけれど歯を磨いて顔を洗いましょ
レイダンドの姫様がたにご紹介しますわ
それからまともなご飯を食べましょう」
最初は隠していたアクシナティの皇女だということも ファナクは話してしまっている
ベルナーとリトアールの人柄か それとも話術か
言葉が通じる 会話ができるという安心感か
将軍リシュウライこそログサール
かの領域を脱走した男
そしてアスザールの弟
「リシュウライは魔法使いなんだ」とだけ ベルナーはファナクに言った
傍らに立つリトアールに小声で言う「相手に自分の目を見させるだけで または声の抑揚だけで相手を自分の意に添わせる術もある」
そんな話をしているところにダンスタンとロズモンドが戻ってきてファナクにも料理を勧める
「良かったわ 言葉が通じるようにできて」
ファナクに話しかけたロズモンドはごくごく小さな声で尋ねた「体を拭きたくない? 私の服で良ければ着替えない」
自分より少し年上らしい異国の女性のとても優しい声と微笑み
ファナクはロズモンドをじっと見上げる
ーもし自分ならば こんなに優しくできるだろうか
よそ者の挙動不審の言葉も分からぬ闖入者
首を刎ねて終わりだ
普通はそういうもののはず
この国の人間はどうしてこれほど優しく振る舞えるのか
「いいわ ゆっくり食べていて 用意だけはしておくわね」
優しい表情のまま ファナクの傍を離れたロズモンドは ベルナーの所に行きこれからするつもりの事を話す
今度はリトアールがロズモンドについて部屋を出て行った
ダンスタン曰く「力仕事なら あっち(リトアール)」
小さな台所とドアでつながった隣が女官の身支度用の控えの間
洗濯用の桶や体を拭くお湯を入れる大き目の桶もある
そうした細々とした設備にも物珍しそうな目を向けるリトアール
台所でお湯を沸かし運び入れるロズモンドをリトアールも手伝う
「すみません 色々と」
「あなたもね 大変だ」
「これも私の仕事ですから」
明るく笑いかけるリトアールにロズモンドも笑顔を返す
用意ををしてベルナーの部屋に戻るとロズモンドはファナクは今夜ーと言ってももう朝が近いけれど自分の部屋に預かると言った
料理や飲み物や食器をまた台車に乗せて手際よく片付けると ファナクと一緒に部屋を出る
リトアールとダンスタンはそんなロズモンドとファナクを送ると またベルナーの部屋に戻ってきた
手早くロズモンドが盆の乗せてくれたささやかな飲み物と食べ物を持って
男達三人はベルナーの部屋で話が終わったあとそのまま眠った
おかげでリトアールの従者ゲイルドとダンスタンの従者オライスは随分焦ったのだけれど
自分の居室の寝台でファナクが眠りについたのを見届けてからーロズモンドは女官長で自分の母親のメリサンドに報告に行った
それからベルナーの様子を覗きに行って 雑魚寝状態の男達三人に目を見張る
それぞれに美しい容姿の青年達
リトアール王子にダンスタン王子にベルナー
ベルナー
ベルナーも真実の身分は ここレイダンドの王子
この国の真の継承者・・・・・
もう気安くベルナーなんて呼び捨てにしてはいけないのかもしれないと寂しく思いながら ロズモンドはそれぞれの体にそうっと寝具をかけて部屋を去った
漸く今になって眠気が襲ってきて寝椅子を自分の部屋の入口に移動させるとロズモンドはその上で眠った
ロズモンドの寝台で熟睡したファナクが昼近くに見たのは 長椅子で毛布だけ被って寝ているロズモンド
疲れ切っているけれど美しい女性(ひと)だとファナクは思った
見たことのない緑色の輝きを帯びた艶やかな栗色の髪
時々緑色が勝つ金色の瞳
濃く長い睫毛
夜 丁寧にファナクの体を拭いてくれた
ファナクが身の回りのことが余りできないのが分かっているかのようにー
丁寧で温かな世話
アクシナティでは幾人もが傅いてくれるけれど こんなに心のこもった世話をされたことは無かった
艶が出るまで髪を梳いてくれて
ファナクが安心して眠るまで小さな声で歌ってくれた
「大丈夫 きっとお国に帰れるわ」
見聞きしたことから自分より遥かに疲れていたのだろうに
ファナクは今迄の自分を恥じた
世話をしてもらえるのは当たり前だと思っていた
いや 世話をさせてあげているのだと・・・・・
それがレイダンドへ来る船の中での不自由で恐ろしい気持ち
レイダンドの国で 港から見える大きく美しい建物
それを目指して 人から隠れながら歩いて・・・・・
独りぼっちで言葉も通じなくて
何もできない 何も知らない自分に気づいて
引き換え このロズモンドという女性はどうだろう
病人の世話 料理 人への気遣い
どうして自分はこのように育たなかったのだろう
こんなふうに何でもできる人間になりたい
これまでの自分は最悪だった
我儘の威張りたがりや
してもらって当然という思い上がり
もしも もしも生きてアクシナティに戻れたら
もっと他人のことを思いやれる人間になろう
そう思いながら突っ立っているファナクの気配に気づいたか ロズモンドは目を開けた
「おはようございます よくおやすみになれましたか」
すぐに起き上がりだしておいた着替えの服をファナクに着付ける
「幸いにまだ袖を通していない服がありましたので 水色がとてもよくお似合いです
髪も少し結いましょうか」
ーお天気が良いからーと窓際に椅子を置き「できるまで外でも眺めていらして下さいね」と微笑む
髪を梳かしながら「よいおぐし(髪)ですこと」
三つ編みを幾つも作りくくっと止めて輪にしたところへ髪飾りをさしていき 後ろの半分の髪はそのままおろす
「これでいかがでしょ」と手鏡を見せてくれる
「少し待っていただければ着替えます」
眠る前に一本の三つ編みにしていたのをほどくと やや面倒くさげにリボンを編み込み そのリボンの端を結んで止めるとネットをかけて前髪だけしゃかしゃかと櫛で梳く
リボンの色が入った服に着替える
その早さにファナクは目を丸くした
「お待たせしました 順序が逆だけれど歯を磨いて顔を洗いましょ
レイダンドの姫様がたにご紹介しますわ
それからまともなご飯を食べましょう」