たとえ勝ち戦(いくさ)でも戦えば負傷者は出る
マルレーネは傷病兵の手当てをしていた
膿んだ傷口にも目を反らしたりはしない
艶やかな栗色の髪は布で覆い口許も布で覆われていて 見えるのは眉と目ばかり
それでもレイダンドの兵は声で姫と気付いた
何が起きても安心と思わせる落ち着いた声と優しい物言い
包帯を取り換えてもらい感動して泣きだす若い兵もいる
兵の中には故郷の山野を離れて久しい者もいる
ー姫様が手当てして下さる!-
ーこの姫様の為ならば!-
ーなんて勿体ない 有難いー
城を守る兵に選ばれることは 彼等の誇り 名誉だった
その頭に王冠を抱かずとも生まれついての女王
漂う高貴 備わる威厳
アンドールは彼女を待つことが苦にならないことに気づく
これから妻になってほしいと彼なりに勢い込んで 意気込んで申し込みにきたのだがー
立ち働くその姿を眺め 妻にしたいと思う気持ちがますます強くなっていく
この女性を護り支え生きていきたいと
負傷兵の世話を二人の妹アシュレインとリザヴェートに引き継いで棟の外に出てきたマルレーネの顔は疲労から少し蒼ざめて見えた
頬にも微かな汚れがついている
髪と口許を覆った布を外し溜息をつく
気を取り直すように背筋を伸ばし 周囲を見渡したマルレーネは木に凭れるように立つアンドールに気付いた
彼が近付いていくとマルレーネは言った
「いまは・・・王子様に会う気分ではありませんの」
「だろうね」
同意したアンドールはマルレーネを抱き上げた
「きゃ・・・」
マルレーネが小さな悲鳴を上げると アンドールは嬉しそうに笑う
そのまま歩き出した
「何をなさるんです」
マルレーネの問いには人をくった言葉が返ってきた
「うん? 歩いている」
マルレーネは以前ロブレインをひっぱたいたエルディーヌの気持が分かってきた
ーこの兄弟は!-
時々 突拍子もない行動に出るのが似ているのだろうか
むしろアンドールは兄弟のブレーキ役に見えていたのにー
少し離れた中庭の泉の畔まで来ると やっとマルレーネをおろす
彼女の頬に指を滑らせ ついていた汚れを拭った
「ここはいい風が吹く 一休みして気分転換するのに良い場所だ」
人の胴にして3人分ほどの太さの幹を持つ大きな木が人の視線をうまい具合に遮ってくれる
マルレーネは少し毒気を抜かれた表情になる
「ええ それで 何か御用がおありなのでしょう」
「勿論」短く答えてアンドールはマルレーネの前で片膝をつき 彼女の手を取り口づける
「な・・・」
びくっと手をひっこめようとするマルレーネ
その手を強く掴んだまま アンドールはマルレーネを見上げ一気に言った
「我が妻になって下さい」
続いた沈黙の後のマルレーネの言葉は「どうして・・・」だった
「どうして いま なのでしょう
心構えとか それなりの恰好の時に・・・・
こうして疲れて 髪も乱れていて 着ている物も汚れていて」
「うん?」
「ああ もう! もっと甘やかな・・・・・」
半ばヒステリーを起こし 支離滅裂な譫言のような事を言っているとわかりながら零れる言葉をマルレーネは止められない
それは自分らしくないことだ
いつも冷静で場に相応しい振舞いを心がけて
でもこの状態で どうするのが正しいのか
「では やり直そう 聞かなかったことにしてくれ
あなたの良い時に 今から告白してほしいと教えてくれたらいい」
そう言いながらアンドールはマルレーネの手を離そうとはしない
マルレーネは少し笑った
「さぁ 告白するのは今よ!って言いますの それもなんだかおかしいわ」
「もっともだ」
大真面目な表情でアンドールが頷く
「大胆かつ情熱的にーか あくまで優雅に上品にか どれがいいか教えてくれたら要望にお応えしたい」
「とりあえず手を 手を離して下さいな」とマルレーネが答えると
「いや・・・ この手を離すつもりはない」
そう言ってアンドールは立ち上がるとマルレーネを腕の中に引き寄せた
この瞬間までマルレーネが思っていたアンドールという人間は いつも穏やか かつ冷静で羽目を外したりはしない
それはただの思い込みだった
アンドールが そう見せようとしているだけのー
心を決めたら目的に向かってー
マルレーネは傷病兵の手当てをしていた
膿んだ傷口にも目を反らしたりはしない
艶やかな栗色の髪は布で覆い口許も布で覆われていて 見えるのは眉と目ばかり
それでもレイダンドの兵は声で姫と気付いた
何が起きても安心と思わせる落ち着いた声と優しい物言い
包帯を取り換えてもらい感動して泣きだす若い兵もいる
兵の中には故郷の山野を離れて久しい者もいる
ー姫様が手当てして下さる!-
ーこの姫様の為ならば!-
ーなんて勿体ない 有難いー
城を守る兵に選ばれることは 彼等の誇り 名誉だった
その頭に王冠を抱かずとも生まれついての女王
漂う高貴 備わる威厳
アンドールは彼女を待つことが苦にならないことに気づく
これから妻になってほしいと彼なりに勢い込んで 意気込んで申し込みにきたのだがー
立ち働くその姿を眺め 妻にしたいと思う気持ちがますます強くなっていく
この女性を護り支え生きていきたいと
負傷兵の世話を二人の妹アシュレインとリザヴェートに引き継いで棟の外に出てきたマルレーネの顔は疲労から少し蒼ざめて見えた
頬にも微かな汚れがついている
髪と口許を覆った布を外し溜息をつく
気を取り直すように背筋を伸ばし 周囲を見渡したマルレーネは木に凭れるように立つアンドールに気付いた
彼が近付いていくとマルレーネは言った
「いまは・・・王子様に会う気分ではありませんの」
「だろうね」
同意したアンドールはマルレーネを抱き上げた
「きゃ・・・」
マルレーネが小さな悲鳴を上げると アンドールは嬉しそうに笑う
そのまま歩き出した
「何をなさるんです」
マルレーネの問いには人をくった言葉が返ってきた
「うん? 歩いている」
マルレーネは以前ロブレインをひっぱたいたエルディーヌの気持が分かってきた
ーこの兄弟は!-
時々 突拍子もない行動に出るのが似ているのだろうか
むしろアンドールは兄弟のブレーキ役に見えていたのにー
少し離れた中庭の泉の畔まで来ると やっとマルレーネをおろす
彼女の頬に指を滑らせ ついていた汚れを拭った
「ここはいい風が吹く 一休みして気分転換するのに良い場所だ」
人の胴にして3人分ほどの太さの幹を持つ大きな木が人の視線をうまい具合に遮ってくれる
マルレーネは少し毒気を抜かれた表情になる
「ええ それで 何か御用がおありなのでしょう」
「勿論」短く答えてアンドールはマルレーネの前で片膝をつき 彼女の手を取り口づける
「な・・・」
びくっと手をひっこめようとするマルレーネ
その手を強く掴んだまま アンドールはマルレーネを見上げ一気に言った
「我が妻になって下さい」
続いた沈黙の後のマルレーネの言葉は「どうして・・・」だった
「どうして いま なのでしょう
心構えとか それなりの恰好の時に・・・・
こうして疲れて 髪も乱れていて 着ている物も汚れていて」
「うん?」
「ああ もう! もっと甘やかな・・・・・」
半ばヒステリーを起こし 支離滅裂な譫言のような事を言っているとわかりながら零れる言葉をマルレーネは止められない
それは自分らしくないことだ
いつも冷静で場に相応しい振舞いを心がけて
でもこの状態で どうするのが正しいのか
「では やり直そう 聞かなかったことにしてくれ
あなたの良い時に 今から告白してほしいと教えてくれたらいい」
そう言いながらアンドールはマルレーネの手を離そうとはしない
マルレーネは少し笑った
「さぁ 告白するのは今よ!って言いますの それもなんだかおかしいわ」
「もっともだ」
大真面目な表情でアンドールが頷く
「大胆かつ情熱的にーか あくまで優雅に上品にか どれがいいか教えてくれたら要望にお応えしたい」
「とりあえず手を 手を離して下さいな」とマルレーネが答えると
「いや・・・ この手を離すつもりはない」
そう言ってアンドールは立ち上がるとマルレーネを腕の中に引き寄せた
この瞬間までマルレーネが思っていたアンドールという人間は いつも穏やか かつ冷静で羽目を外したりはしない
それはただの思い込みだった
アンドールが そう見せようとしているだけのー
心を決めたら目的に向かってー