ブロディルの第二王子ロブレインは王になる気は無かった
兄のアンドールがこの国に残るというのは まさしく渡りに船
ただ問題はエルディーヌ姫
らしくもなく弱気だが まずブロディルへの旅だけはしないかと・・・・・
しかし それも随分卑怯だ
考えてみれば自分の良い所など見せたことがない
皮肉と毒舌しかー厄介だ
口喧嘩を 言葉の応酬を楽しんできた
ー全く 自分が面倒だ
苦笑するロブレインに横を歩くアンドールが声をかける「緊張するか」
「丸腰でライオンに向き合う気分だ」
くっくっくとアンドールが笑い声をあげる
「こっちは泳ぎを覚えた日の気分だね」
「参考までに どうやるのさ」
「正直にぶつかるさ だめなら・・・致し方ない」
「正直に・・・か」
アンドールの答えに ロブレインも頷く
「そう・・・頑張れよ ロブレイン」
ぽんとロブレインの肩を叩き アンドールは大股で離れて行く
何か迷いがあったようだが ふっきったようで ひどくすっきりした後ろ姿だった
ー大変だねぇ 長男はー頑張れ!
こちらは心の中で兄へのエールをおくる
彼もまた人生について考えたのだった
それゆえの決断
ロブレインが見つけたエルディーヌは意外なことをしていた
それは薬などを作る場所で エルディーヌは頭髪を布で包み飾り気のない簡素な服で すり鉢で何かをすり潰している
姫君がする仕事とも思えなかったが エルディーヌは真剣な様子で額には汗が光る
その姿を外廊の明り取りの窓からロブレインは暫く眺めていた
女官や召使に混じり 自分の身分を気にすることなく一緒に働いている
侍女が何を囁いたのか目を上げたエルディーヌはロブレインの姿を認めた
作業部屋からロブレインのいる外廊下へ出てくる
頭に巻いた布を外し 畳んで服のポケットに入れる
「これが普段のあたくしよ メリサンドの教育方針なの
料理 縫物 薬草摘みに薬作り
井戸水を汲んで 運ばれる水の重さを知ること
この時間 マルレーネは先日の戦いでの負傷兵の看病の手当てを アシュレインはその兵達への菓子作り
リザヴェートは薬草摘み
そして私は薬の材料のすり潰し
役に立たない人間は尊敬されない
自分達の生活を支えてくれる人間の仕事の大変さを知り 生きる上に必要な様々な知識を持つべきだと
優雅なダンス
楽器を巧みに奏でる
姫君らしい諸々以外に
人として有用有能であるべきだと
上に立つ人間は 自らが尊敬を強要するのではなく おのずと尊敬される人間になるべきだと」
王妃・・・・・母親を幼いうちに失った四人の姫君達を自分の娘を育てるように 願いと愛と真心込めて育てたメリサンド
その教えに素直に従い守る姫君達
エルディーヌの言葉を聞きながら ロブレインはそうした様子を思い浮かべる
だからこそ城の人間も ひいては国の者達も 国を守らねばーと思うようになる
姫みずからが作った薬で手当てされる兵士達
「君は・・・わたしには過ぎた姫だ・・・」
ロブレインの口から素直な言葉が出る「まいったな・・・」
続けてロブレインは軽く首を振った
無言でロブレインを見上げるだけのエルディーヌ
「妻になってくれないかと言いたくて 君を捜していた
アンドールはマルレーネ姫が受け入れてくれたら この国で暮らすと心を決めた
わたしは兄を支えて この国を守りたいと思う
君がわたしの妻になってもいいと思うならば
だが・・・その話は別として
兄はマルレーネ姫にブロディルを見せたいと思っているようだ
姉君一人では淋しかろう
その旅に君も一緒に来ないか
誰かの妻になってからでは 身分上 旅も自由にはできまい」
「あたくしは・・・・・」
そのエルディーヌの言葉を遮りロブレインは続ける
「その答えを聞くのが ひどく恐ろしいんだ
今はー真剣に君を愛していると知ってくれるだけでいい
君が愛する国から君をひき離したくない」
「その為なら 貴方が自分の国を捨てるとー」
「何処かの王になるよりも・・・」ストレートな気負いない言葉をロブレインは続けた
「君を愛している」
ーそうだった・・・・・
この国にいつまでもこの人達がいられるわけがない 自分の国から離れて
アクシナティの問題も片付きつつある今
正しい答を出さないといけない
でも一生を決めるには余りにも時間が短い
この方はどうして迷いもなく「愛している」と言い切れるのか
おかしな話だけれど この方と言い合いをするのは楽しかった
どう言い返そうかと言葉を選ぶのも
口ではお仕置きだの手を上げることをほのめかしても 実際にそうしようと動いたことはない
むしろあたくしが怒る 笑う そう変化する表情を楽しむようにー
あたくしは この方のそんな余裕を消したくてー
消したかった?
この方が心を乱すところが見たかった?
感情のゆらめきがエルディーヌの瞳に浮かぶ ひどく切なげな表情になる
やっと言った「あたくしは そういう類(たぐい)の告白に馴れておりません」
ーそうきたか
馴れられてちゃ困るがと思うロブレイン
「ただ・・・もう二度と会えないのは 会えなくなるのは・・・嫌です・・・」
言い終るとエルディーヌの瞳から涙が零れた
その事にエルディーヌも驚いたようだ
「貴方がブロディルに帰られてー二度と会えないのは・・・」
そう思っただけで 涙が溢れてくる
「あたくし あたくしは・・・・・」
自分が考えていた以上に いつの間にかロブレインが傍にいることが当たり前になっていたとエルディーヌは気付いた
もう会えないと思うだけで涙が止まらなくなるほどに
その腕をためらいながらロブレインはエルディーヌに回し 彼女が拒否しないとわかると強く抱きしめた
兄のアンドールがこの国に残るというのは まさしく渡りに船
ただ問題はエルディーヌ姫
らしくもなく弱気だが まずブロディルへの旅だけはしないかと・・・・・
しかし それも随分卑怯だ
考えてみれば自分の良い所など見せたことがない
皮肉と毒舌しかー厄介だ
口喧嘩を 言葉の応酬を楽しんできた
ー全く 自分が面倒だ
苦笑するロブレインに横を歩くアンドールが声をかける「緊張するか」
「丸腰でライオンに向き合う気分だ」
くっくっくとアンドールが笑い声をあげる
「こっちは泳ぎを覚えた日の気分だね」
「参考までに どうやるのさ」
「正直にぶつかるさ だめなら・・・致し方ない」
「正直に・・・か」
アンドールの答えに ロブレインも頷く
「そう・・・頑張れよ ロブレイン」
ぽんとロブレインの肩を叩き アンドールは大股で離れて行く
何か迷いがあったようだが ふっきったようで ひどくすっきりした後ろ姿だった
ー大変だねぇ 長男はー頑張れ!
こちらは心の中で兄へのエールをおくる
彼もまた人生について考えたのだった
それゆえの決断
ロブレインが見つけたエルディーヌは意外なことをしていた
それは薬などを作る場所で エルディーヌは頭髪を布で包み飾り気のない簡素な服で すり鉢で何かをすり潰している
姫君がする仕事とも思えなかったが エルディーヌは真剣な様子で額には汗が光る
その姿を外廊の明り取りの窓からロブレインは暫く眺めていた
女官や召使に混じり 自分の身分を気にすることなく一緒に働いている
侍女が何を囁いたのか目を上げたエルディーヌはロブレインの姿を認めた
作業部屋からロブレインのいる外廊下へ出てくる
頭に巻いた布を外し 畳んで服のポケットに入れる
「これが普段のあたくしよ メリサンドの教育方針なの
料理 縫物 薬草摘みに薬作り
井戸水を汲んで 運ばれる水の重さを知ること
この時間 マルレーネは先日の戦いでの負傷兵の看病の手当てを アシュレインはその兵達への菓子作り
リザヴェートは薬草摘み
そして私は薬の材料のすり潰し
役に立たない人間は尊敬されない
自分達の生活を支えてくれる人間の仕事の大変さを知り 生きる上に必要な様々な知識を持つべきだと
優雅なダンス
楽器を巧みに奏でる
姫君らしい諸々以外に
人として有用有能であるべきだと
上に立つ人間は 自らが尊敬を強要するのではなく おのずと尊敬される人間になるべきだと」
王妃・・・・・母親を幼いうちに失った四人の姫君達を自分の娘を育てるように 願いと愛と真心込めて育てたメリサンド
その教えに素直に従い守る姫君達
エルディーヌの言葉を聞きながら ロブレインはそうした様子を思い浮かべる
だからこそ城の人間も ひいては国の者達も 国を守らねばーと思うようになる
姫みずからが作った薬で手当てされる兵士達
「君は・・・わたしには過ぎた姫だ・・・」
ロブレインの口から素直な言葉が出る「まいったな・・・」
続けてロブレインは軽く首を振った
無言でロブレインを見上げるだけのエルディーヌ
「妻になってくれないかと言いたくて 君を捜していた
アンドールはマルレーネ姫が受け入れてくれたら この国で暮らすと心を決めた
わたしは兄を支えて この国を守りたいと思う
君がわたしの妻になってもいいと思うならば
だが・・・その話は別として
兄はマルレーネ姫にブロディルを見せたいと思っているようだ
姉君一人では淋しかろう
その旅に君も一緒に来ないか
誰かの妻になってからでは 身分上 旅も自由にはできまい」
「あたくしは・・・・・」
そのエルディーヌの言葉を遮りロブレインは続ける
「その答えを聞くのが ひどく恐ろしいんだ
今はー真剣に君を愛していると知ってくれるだけでいい
君が愛する国から君をひき離したくない」
「その為なら 貴方が自分の国を捨てるとー」
「何処かの王になるよりも・・・」ストレートな気負いない言葉をロブレインは続けた
「君を愛している」
ーそうだった・・・・・
この国にいつまでもこの人達がいられるわけがない 自分の国から離れて
アクシナティの問題も片付きつつある今
正しい答を出さないといけない
でも一生を決めるには余りにも時間が短い
この方はどうして迷いもなく「愛している」と言い切れるのか
おかしな話だけれど この方と言い合いをするのは楽しかった
どう言い返そうかと言葉を選ぶのも
口ではお仕置きだの手を上げることをほのめかしても 実際にそうしようと動いたことはない
むしろあたくしが怒る 笑う そう変化する表情を楽しむようにー
あたくしは この方のそんな余裕を消したくてー
消したかった?
この方が心を乱すところが見たかった?
感情のゆらめきがエルディーヌの瞳に浮かぶ ひどく切なげな表情になる
やっと言った「あたくしは そういう類(たぐい)の告白に馴れておりません」
ーそうきたか
馴れられてちゃ困るがと思うロブレイン
「ただ・・・もう二度と会えないのは 会えなくなるのは・・・嫌です・・・」
言い終るとエルディーヌの瞳から涙が零れた
その事にエルディーヌも驚いたようだ
「貴方がブロディルに帰られてー二度と会えないのは・・・」
そう思っただけで 涙が溢れてくる
「あたくし あたくしは・・・・・」
自分が考えていた以上に いつの間にかロブレインが傍にいることが当たり前になっていたとエルディーヌは気付いた
もう会えないと思うだけで涙が止まらなくなるほどに
その腕をためらいながらロブレインはエルディーヌに回し 彼女が拒否しないとわかると強く抱きしめた