小さな頃に透ける薄衣を両手で頭上に掲げ立つ美しい女性(ひと)を見ました
おじい様の屋敷の門の外の大きな桜の木の下に その人はおりました
その人を見た日におじい様が亡くなったものだから余計に何やら不思議なことのように覚えています
でも何やら言ってはいけない事のようで・・・長い事 誰にも言えずにおりました
おじい様の屋敷は古くて大きくて・・・それだのにおじい様はそこで一人で暮らしておりました
おばあ様は母の子供である私達の世話を口実にその屋敷を離れてー
だから おじい様が亡くなったあと そのおじい様の屋敷は長い事 誰も住む者がおりませんでした
私がおばあ様の亡くなったあと 訪ねてくるまでは
住む人も手入れする人もいなくて 錆びついているかと思われた鉄の扉は 油をささずとも 軽くゆるゆると おいでおいでをするように開き
私は屋敷に招かれるように入りました
おばあ様は 「あれは不思議な屋敷なの」住む人を選ぶのだと言いました
おばあ様は招かれなかった
だから暮らせなかったとも
「おじい様にはー」と おばあ様は話しました
私が もしかしたら夢だったのかもしれない古風ないでたちの美しい女性のことを話した時に・・・・・
「そう あなたは見たのね 見えたのね
おじい様には想う相手が居たの
知っていたわ わたしは
何か事情があって一緒にはなれない相手のようだとも
そして おじい様の家は傾いていた
この大きなお屋敷を維持などできない
わたしは おじい様を持参金と引き換えに買ったのよ
だって それほど好きだったからー
おじい様が好きだった相手のことは何一つ知らないわ
でも きっと迎えにきたのね
おじい様のことを
わたしは死んでも一人だわ」
そうしてー亡くなる時におばあ様は この屋敷を私に遺してくれてました
「見えたというのも何かの縁なのでしょうから」
おばあ様が産んだ娘である私の母におじい様が何の感情も持っていなかったとは思えません
だけどおじい様は母がまだ幼い頃にこの屋敷へ戻っていったと言います
屋敷に呼ばれるようにー
私が屋敷へ着いた時には 花の季節も終わりでしょうに まだ桜は咲いておりました
さわさわ さわさわ 風に枝を揺らされながら
覚えていたよりもまた随分と大きな樹になっております
淡い色の花がびっしり 間に黒く見える枝がところどころに
不思議な事に玄関の扉を開ける頃には 風に乗って花びらが届いてまいりました
大急ぎで散り始めでもしたように
桜に意思があるように
ふわりと優しく花びらが肩に乗ります
誰かの手が触れるように
それはそれは優しくそうっと
触れられたところから温かさが広がっていくのです
・・・りなさい・・・・
「お帰りなさい」と言われたような気がしました
中に入れば 床もしっかりとしていて 傷んだところも無いようです
私は水回りなどに少し手を入れて この屋敷に住むことにしました
おじい様のこと
おじい様の好きだった相手のこと
そして桜の木の下の美しい女性のこと
そうしたことが知りたくて 募る好奇心も抑えきれず
おばあ様が遺してくれたのをいいことに訪ねたのでしたがー
屋敷に入ると 何故かこの屋敷から離れがたくなってしまったのです
この屋敷が私が住むことを許してくれればいいのですが
散り始めた桜の木に手を当てて問うてもみました
ー桜 さくら 私はこの屋敷に住んでもいい?-
答は夢の中
「お待ちしておりました」
ひらひら はらはら降る桜の花雨の下で そんな言葉を聞いたのです
夢 幻
たとえ それでもかまわない
桜の花に この屋敷にも意思があるのならば
そんな不思議を信じてみたいのです
おじい様の屋敷の門の外の大きな桜の木の下に その人はおりました
その人を見た日におじい様が亡くなったものだから余計に何やら不思議なことのように覚えています
でも何やら言ってはいけない事のようで・・・長い事 誰にも言えずにおりました
おじい様の屋敷は古くて大きくて・・・それだのにおじい様はそこで一人で暮らしておりました
おばあ様は母の子供である私達の世話を口実にその屋敷を離れてー
だから おじい様が亡くなったあと そのおじい様の屋敷は長い事 誰も住む者がおりませんでした
私がおばあ様の亡くなったあと 訪ねてくるまでは
住む人も手入れする人もいなくて 錆びついているかと思われた鉄の扉は 油をささずとも 軽くゆるゆると おいでおいでをするように開き
私は屋敷に招かれるように入りました
おばあ様は 「あれは不思議な屋敷なの」住む人を選ぶのだと言いました
おばあ様は招かれなかった
だから暮らせなかったとも
「おじい様にはー」と おばあ様は話しました
私が もしかしたら夢だったのかもしれない古風ないでたちの美しい女性のことを話した時に・・・・・
「そう あなたは見たのね 見えたのね
おじい様には想う相手が居たの
知っていたわ わたしは
何か事情があって一緒にはなれない相手のようだとも
そして おじい様の家は傾いていた
この大きなお屋敷を維持などできない
わたしは おじい様を持参金と引き換えに買ったのよ
だって それほど好きだったからー
おじい様が好きだった相手のことは何一つ知らないわ
でも きっと迎えにきたのね
おじい様のことを
わたしは死んでも一人だわ」
そうしてー亡くなる時におばあ様は この屋敷を私に遺してくれてました
「見えたというのも何かの縁なのでしょうから」
おばあ様が産んだ娘である私の母におじい様が何の感情も持っていなかったとは思えません
だけどおじい様は母がまだ幼い頃にこの屋敷へ戻っていったと言います
屋敷に呼ばれるようにー
私が屋敷へ着いた時には 花の季節も終わりでしょうに まだ桜は咲いておりました
さわさわ さわさわ 風に枝を揺らされながら
覚えていたよりもまた随分と大きな樹になっております
淡い色の花がびっしり 間に黒く見える枝がところどころに
不思議な事に玄関の扉を開ける頃には 風に乗って花びらが届いてまいりました
大急ぎで散り始めでもしたように
桜に意思があるように
ふわりと優しく花びらが肩に乗ります
誰かの手が触れるように
それはそれは優しくそうっと
触れられたところから温かさが広がっていくのです
・・・りなさい・・・・
「お帰りなさい」と言われたような気がしました
中に入れば 床もしっかりとしていて 傷んだところも無いようです
私は水回りなどに少し手を入れて この屋敷に住むことにしました
おじい様のこと
おじい様の好きだった相手のこと
そして桜の木の下の美しい女性のこと
そうしたことが知りたくて 募る好奇心も抑えきれず
おばあ様が遺してくれたのをいいことに訪ねたのでしたがー
屋敷に入ると 何故かこの屋敷から離れがたくなってしまったのです
この屋敷が私が住むことを許してくれればいいのですが
散り始めた桜の木に手を当てて問うてもみました
ー桜 さくら 私はこの屋敷に住んでもいい?-
答は夢の中
「お待ちしておりました」
ひらひら はらはら降る桜の花雨の下で そんな言葉を聞いたのです
夢 幻
たとえ それでもかまわない
桜の花に この屋敷にも意思があるのならば
そんな不思議を信じてみたいのです