夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「よたばなし」-30-

2020-03-27 23:09:00 | 自作の小説
ー罪夢ー

ああ また この夢だ

芝居小屋の古い建物 床が抜けそうな舞台
誰も居ない座席

ただ一人残っている若い女
これから売れるはずの女優だった

とびきり美しい
薄暗い小屋の中でも輝くようだ

あたしはこの若い娘が怖かった

その若さ 美しさ

今もー売れ始めの若いコ達を見ると思い出さずにいられない
あの娘は腕が似ている
なよやかな細い腕

そう あたしが殺した娘は爪の形すら美しかった

あたしは妬んだ その美しさ 若さ

あたしの情人(おとこ)だった監督は これからはあの娘でいくーと言った

もう お前は脇に回れーとばっかりに


でも今なら 誰もこの娘を知らない
まだ世に出てはいない


不幸な事故はつきもの
よくあること

古い建物はよく火事がある


そこにいたのは ただの不運


他人の名前で呼び出して

中から出られないように細工して 火をつけた
簡単だった

「誰か! 出して!出して!」「助けて!」「きゃああああ~~~~」

苦し気に咳き込む音
それすら甘美なものとして聞いたのだ

これで もう脅かされない

不幸な事故 世に出る前に死んだ娘

もう誰も覚えていない


遠い昔の話
長い事 思い出しもしなかった


それが何故だろう 今頃になって
見かけた若い娘達に あの娘の面影を見つけてしまう
くっきりした二重瞼の黒目がちの瞳

抜けるように白い肌

黒の中の黒のようだった長い髪

つんとした それでいて触りたくなる唇


夢の中 極上に美しい娘の姿は燃えあがり近づいてくる

炎に包まれて 焼けながら
その腕で あたしを抱きしめようとする

嫌だ! あたしは謝らない
赦しなんてこわない

あたしの地位を脅かそうとしたその美しさが悪いのだ

あたしは悪くない
あたしは自分の場をまもっただけ

しつこくもまだ恨んでいるのか

怨み続ければいい

こんな夢など恐ろしいものか

起きてやる
起きて もっと別な楽しい夢を見直すだけのこと

お前など夢に置き去りにしてやるわ



「よたばなし」-29-

2020-03-27 09:43:26 | 自作の小説
ー黒い部屋ー

ーーーーーー友人が「妙な夢を見たんだ」と話し始めた

{どっかの家の中で開いたドアの向こうを見たら 真っ黒で こう黒が広がっているように見えてさ
その部屋の真ん中に女が一人立っている 黒はその女から広がっているようなんだ
女が来ているモノも黒でね
でも顔は白い
前髪というか髪形は そうだな映画のクレオパトラのあれ あれにウエーブかかってて波打っている
背中と腰の間くらいまで長さはあるように見えた
漆黒っていうのはあんな色なんじゃないかな

顔だちはひどくすっきりとしている

夢の中のオレは何か随分昔の女優さんー母親だか ううんもっと昔祖母世代の女優さんの名前を言ったような記憶がある
起きたら名前を忘れていたけれど
それで女は横顔見せて立っていたんだけど 横目でオレを見た

そして女が立っている部屋の向こう側
オレが女を見ている反対側の部屋にも誰か女が居たようなんだ
何か声が聞こえた

ただそれだけの夢なんだが

起きても女の表情 動いた目と 部屋の様子 黒い色が頭から離れない

まるで夢に覆われていくようなんだー}


夢に取り込まれていくような気がする 起きていても・・・

そう友人は言い 間もなく姿を見かけなくなった

気になって家を訪ねると友人の母親は警察にも届けを出してきたと

でもいなくなり方が奇妙なのだそうだ

夜「おやすみ」と言って部屋に入り 朝になって起きてこないので部屋に行けば 寝た様子はある布団
ただ体がすっぽり消えたような


靴もある
出掛けた様子は無い

夜の間に出ていったとは思えないのに
部屋に姿が無いのだと

机の上に置かれたノート
窓も開けていないのに ぱらぱらと紙片がめくれ
開いたのは
黒い絵 部屋の中に女が立っている

ああ居なくなる前に友人が言っていた夢を絵にしたものか
これは

絵の中の女の目が動いた気がした こちらを 僕を見たような・・・
まさかー



それから
僕の前に黒が広がる

黒が波打つ

あの女が目の前に立っている

部屋の隅から細い女の声がする

この女に尋ねているらしい
「姫様 今度はお気に召しましたでしょうか」

この女は何と答えるのだろう
その答えがとても恐ろしい気がする

この夢に友人も取り込まれたのだろうか
僕はどうなるのだろう

夢 これは夢なのだから ただ目覚めればいい そのはずだ
そう・・・・・だろう?

それとも目覚められない夢なのか
全てを取り込み逃がさない場所なのかーーーーー







伝染する夢の噂を聞いた
その夢の話を聞き 夢に見ると居なくなる

そんなまさかと俺は思っていた
子供だましの都市伝説だと馬鹿にして笑っていた


いま 俺の前に黒い色が広がっていく
これは夢か 現実か

何が起きようとしている

ああ 女が現れた

ひどく傲慢な表情をしている
冷たい眼だ