古書店で初版本 (左) を見つけた.1956 文藝春秋.昔我が家にあったような気がして,大枚 350 円を投じてしまった.
右は 1988 文春文庫版のカバー.初版本にもモノクロだか著者御尊影が愛猿とともに挿入されていて,これより若い.猿もちがうのかもしれない.
著者は時代小説の作家だが,猿やら犬やら何匹も飼っている.あまり堅気ではない方々とも,上から目線で付き合う.こういう大人は周囲から消えてしまったようだ.
これは飼い犬や飼い猿をテーマにした7本のエッセイ集.カラスやノジコという小鳥も登場するが,一番長いのはタイトルの「愛猿記」.凶暴で誰の手にも負えない猿だが,猿回しの親方の助言に従い,首根っこに後ろから噛み付くと,その後猿は絶対服従するようになる.しかし相手にされないとせっかく書いた原稿をびりびりにするなどの狼藉を働く.牝で焼き餅焼き.一緒に風呂に入ってうんこされたり,もう大変.
犬も猿も鳥もヒトより寿命が短いから,この本では作品の数だけ死がある.
「猿を捨てに」の猿は二代目らしいが,空襲が激しくなり,防空壕に猿を連れ込んでご近所様から非難され,猿の故郷という富士山麓まで捨てに行く話.結局猿がかじりついて離れないので東京に連れ帰るという結末.
飼い犬を鎖につないでおかなくてもよかった時代で,「ジロの一生」のジロは,もう一匹アカという犬を後から飼ったら家出してしまう.しかし日本刀で尻尾も後足も切られ,息も絶え絶えで子母澤家に帰ってくる.このジロを安楽死させるのだが,読んでいるのと並行に津久井やまゆり園事件 (犯人は優生思想にかられ,障害者 19 人を殺害) が報道され,この障害犬薬殺についても考えることになってしまった.
人間が主人公の小説よりも心を乱されることが多かった.