庄野潤三,新潮社(2011/7).
逸見はヘミと読む.タイトルに反し,小学生は登場しない.戦時中に小学校は海軍部隊に接収される.そこでの出来事が 27歳の海軍少尉の視点で記述される.
単行本刊行に読もうかなと思ったが,そのまま忘れていたのを,古書店で見かけて購入...このごろ読書は古書と図書館本に限られつつある.
終戦の年の春,5つの海軍部隊が,横須賀の逸見小学校に集まり,赴任までの時を過ごす.われわれが読み慣れているのは,二等兵が殴られたりしてひどい目に会う場面だが,少尉ともなればけっこうのんきである.フィリピンに赴任すれば死が待っているのだが,英気を養うためとして,球技をしたり,酒を飲んだり,部下たちを勝手に一時帰郷させたりする.
主人公はこの逸見小学校に行く朝,二日酔いで集合に遅れてしまう.行ってから三日目には結構候補の女性に会いに行く.
やや時間的に遡ると,妹に「誰か結婚する候補者はいないか」と聞き,卒業アルバムを見せられてのやりとりがある,「美人じゃないね」「目もと口もとが可愛いのよ.性質がアッサリしてて,行動的で,のびのびしてて,兄さんの好きになりそうな人よ」.主人公の家庭は現代以上に現代的だったらしい.
著者 (1921-2009) の死後発見された原稿で,「原稿1枚ヌケ」が3箇所ほど.最後はフィリピンにわたる直前,2度目に彼女と話している場面で (終) とななるが,本当にこれで終わったのだろうか.
登場する同僚の少尉たちの蛮行が描かれている.それぞれモデルがたやすく同定できるから,この小説が出版されなかったという説もあり,また戦闘そのものが派手に描かれていないためという説もある.後者について解説 (鷺 只雄) によれば,著者は「戦争というのはひと口に悲惨といってしまうのでは足りなくて,いろんなおかしみや哀愁のあることを生み出すのに都合のいい状況をつくる」と語っていたという,この作品はその実践だろう.
同じような状況を小説に書いたものに,自分の知る範囲では,島尾敏雄「魚雷艇学生」がある.主人公はやはり少尉で年齢も同じくらいだ.島尾流に言えばそのテーマは特攻の前の「奔湍の中の淀み」である.
しかし島尾作品に比べ,庄野作品はずっと楽天的.ちなみに庄野と島尾は親交があったとのこと.
☆☆☆★
逸見はヘミと読む.タイトルに反し,小学生は登場しない.戦時中に小学校は海軍部隊に接収される.そこでの出来事が 27歳の海軍少尉の視点で記述される.
単行本刊行に読もうかなと思ったが,そのまま忘れていたのを,古書店で見かけて購入...このごろ読書は古書と図書館本に限られつつある.
終戦の年の春,5つの海軍部隊が,横須賀の逸見小学校に集まり,赴任までの時を過ごす.われわれが読み慣れているのは,二等兵が殴られたりしてひどい目に会う場面だが,少尉ともなればけっこうのんきである.フィリピンに赴任すれば死が待っているのだが,英気を養うためとして,球技をしたり,酒を飲んだり,部下たちを勝手に一時帰郷させたりする.
主人公はこの逸見小学校に行く朝,二日酔いで集合に遅れてしまう.行ってから三日目には結構候補の女性に会いに行く.
やや時間的に遡ると,妹に「誰か結婚する候補者はいないか」と聞き,卒業アルバムを見せられてのやりとりがある,「美人じゃないね」「目もと口もとが可愛いのよ.性質がアッサリしてて,行動的で,のびのびしてて,兄さんの好きになりそうな人よ」.主人公の家庭は現代以上に現代的だったらしい.
著者 (1921-2009) の死後発見された原稿で,「原稿1枚ヌケ」が3箇所ほど.最後はフィリピンにわたる直前,2度目に彼女と話している場面で (終) とななるが,本当にこれで終わったのだろうか.
登場する同僚の少尉たちの蛮行が描かれている.それぞれモデルがたやすく同定できるから,この小説が出版されなかったという説もあり,また戦闘そのものが派手に描かれていないためという説もある.後者について解説 (鷺 只雄) によれば,著者は「戦争というのはひと口に悲惨といってしまうのでは足りなくて,いろんなおかしみや哀愁のあることを生み出すのに都合のいい状況をつくる」と語っていたという,この作品はその実践だろう.
同じような状況を小説に書いたものに,自分の知る範囲では,島尾敏雄「魚雷艇学生」がある.主人公はやはり少尉で年齢も同じくらいだ.島尾流に言えばそのテーマは特攻の前の「奔湍の中の淀み」である.
しかし島尾作品に比べ,庄野作品はずっと楽天的.ちなみに庄野と島尾は親交があったとのこと.
☆☆☆★