【安倍首相】:仰々しかった総裁選会見 維新を気取る気味悪さ
『漂流日本の羅針盤』:【安倍首相】:仰々しかった総裁選会見 維新を気取る気味悪さ
またもや「明治維新」である。
延ばしに延ばした自民党総裁選への出馬表明。安倍首相は26日、視察先の鹿児島県で、雄大な桜島をバックに立候補の決意を語った。地方での出馬表明は異例。地方票に重きを置いているというアピールとともに、鹿児島を選んだのは、自身の地元である山口との「薩長同盟」が明治維新の契機となったことにちなんだためだ。直前に出席した会合の演説で、安倍は、「薩長で力を合わせて、新たな時代を切り開いていきたい」と訴えてもいる。

出馬表明はNHKで生中継され、視聴者が恥ずかしくなるほどのカメラ目線で語りかける安倍の表情は、いかにも演技がかっていた。桜島をバックという演出もわざとらしすぎて噴飯ものだ。
出馬表明当日の夜のNHK大河ドラマ「西郷どん」のタイトルは「薩長同盟」で、オープニング音楽のラストで映し出される桜島の映像の上に、その文字がドーンと乗っかっていた。当然、出馬表明は、この日の「西郷どん」のタイトルを意識した上でのことだろう。軽薄な安倍の側近が考えそうなことだ。
加えて、決意のセリフの仰々しさったらない。
「来年、皇位の継承、日本で初めて20カ国・地域(G20)首脳会議を開催する。そのさらに先には2020年東京五輪・パラリンピックが開かれる。まさに日本は大きな歴史の転換点を迎える。今こそ日本の明日を切り開く時だ。平成のその先の時代に向けて、新たな国造りを進めていく先頭に立つ決意だ」

27日は福井で9条改憲を主張(C)共同通信社
■押し付けの礼賛一色
“歴史の転換点”“日本の明日を切り開く”――。安倍は年初から何かというと今年が「明治維新150年」であることを持ち出しては、「明治日本のような新たな国造り」と叫んで国民を鼓舞してきた。政府は内閣官房に「『明治150年』関連施策推進室」を設け、全国で行われる関連イベントをバックアップ中。そのHPには、<この「明治150年」をきっかけとして、明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは、大変重要なことです>と書かれている。
明治維新については、「坂の上の雲」など、国造りという熱い志に燃える明治人のドラマを読んで、感動している日本人が少なくない。だから安倍政権も、明治維新に学ぶことこそがこの国の未来につながるかのように、押し付けの礼賛一色なのだが、明治維新に対する歴史的評価はさまざまだ。
「近代日本の礎を築いた」という評価がある一方、「テロリストの戦争屋が国を乗っ取った」という見方もある。富国強兵、殖産興業の先に帝国主義があり、結局、明治維新が行き着いた先は、1945年の敗戦だった。
「明治はよかった」「あの改革をもう一度」とただただ称賛し、もったいぶった総裁選出馬の演出に利用する。安倍の時代錯誤と薄っぺらな歴史認識には呆れてしまう。
歴史作家の加来耕三氏がこう言う。
「明治維新については、暴力的なクーデターだったなどの批判もありますが、少なくとも彼らには日本を植民地にせず、独立国として守るという命がけの行動がありました。それに比べて安倍首相はどうでしょう。今の政権はトランプ大統領に追従するだけの米国の植民地のようになっていますし、モリカケ問題では言い訳ばかり。そんな安倍首相がただ地元が同じだからといって、自らを維新の長州藩になぞらえるなんて、勘違いも甚だしいと思います」

桜島を背に、自民党総裁選への立候補を正式に表明する安倍首相(C)共同通信社
◆新元号公表で国民生活よりシンパの極右を優先
来年5月1日に予定される新天皇即位に伴う元号改定についても、安倍首相の身勝手と政治利用が見え隠れする。
天皇の退位が決まった昨年、国民生活への影響を考慮して、新元号は今年中に事前公表される予定だった。ところが、それが、来年2月24日の天皇即位30年を祝う記念式典後へとずれ込み、さらには、改元日のわずか1カ月前の公表へと遅らされた。これも確定ではなく、あくまで現段階での政府の事務的な想定にすぎない。
カレンダー業者もさることながら、システム改修が間に合うのかどうか。国民生活が混乱する恐れを無視してでも、新元号の公表を遅らせるのは、安倍が「日本会議」などシンパの極右の保守派の意向を優先しているからだ。
保守派は、元号は天皇の崩御後の呼び名である「おくり名」にもなるだけに、新天皇が自ら新元号を公布するのが筋だと考えている。そのため、「新元号の公表は新天皇が即位する来年5月1日以降に」というのが保守派の主張なのだ。
「元号は政令で定める」とされ、法律的には事前公表しても構わないというのが、もともとの政府の立場だ。それなのに安倍は、自分を熱烈に支持してくれるシンパの顔色をうかがう。新元号の公表時期は、いまだ不透明なままである。
安倍3選をめぐっても、改元が都合よく使われている。
「天皇退位に伴う有識者会議を事実上仕切ったのは、警察出身の杉田和博官房副長官でした。新天皇即位の式典の準備委員会も、トップこそ菅官房長官ですが、事実上仕切るのは杉田副長官。それで、『来年は改元がある。さらにはG20が日本で開催され、厳重な警備体制を敷く必要がある。杉田官房副長官を交代させるわけにはいかないので、安倍政権の継続が不可避だ』というような理屈も自民党内で広がっています」(自民党関係者)
■大日本帝国を夢想
結局、政権に居座ることが目的なのに、総裁選の出馬表明のように、安倍は維新150年を美化し、改元を大言壮語する。大日本帝国の再現を夢見ているのか。列強と伍する軍事国家にしたいのか。少なからぬ国民が安倍に不気味さを感じ、「イカれているのでは」と不安を抱いたことだろう。
政治評論家の森田実氏はこう言う。
「明治政府の最大の失敗は、帝国主義に走ったことです。武力で他国を支配し、軍事力に解決を求めた。戦後、日本人のほとんどが大日本帝国の犯した失敗を反省している。それが日本の戦後の出発点です。ところが、安倍首相にはその反省がない。それが最大の問題です」
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)もこう言う。
「長州を持ち上げる安倍首相には、この国をもう一度、大日本帝国のような大国にしたいという強い願望を感じます。日本を、世界のさまざまな国のさまざまな問題に口出しして、世界を動かせるような大国にしたい。それは祖父である岸信介の願いでもありました。彼ら保守政治家にとって、明治維新とは、そうした目指す国家像のお手本なのです。安倍首相は昨年5月3日に、2020年の東京五輪の年に新憲法施行を目指すと言いました。改憲して9条を変え、戦争のできる国にして、軍事強国にする。世界の大国というのはそういう意味でもあります。五輪の新しい年に戦後政治を総決算する。それが安倍首相の描くストーリーなのでしょう」
明治以降、日清戦争、日露戦争、日中戦争、太平洋戦争と戦争ばかりが続いた。しかし戦後73年は、一度も戦争のない平和な時代が続いている。しかし、それも平成と共に終焉を迎えることになってしまうのか。安倍の気味の悪い言動を見ていると、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。
元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース 政治・経済 【政治ニュース】 2018年08月28日 15:25:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。