【社説】:②座間事件起訴 卑劣な犯罪の真相に迫れるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:②座間事件起訴 卑劣な犯罪の真相に迫れるか
若い被害者の苦悩につけ込んだ卑劣な犯罪が、法廷で裁かれることになった。類似の事件を防ぐためにも、動機や手口の解明が求められる。
神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件で、東京地検立川支部が、白石隆浩容疑者(27)を起訴した。逮捕容疑は9人の殺人や死体遺棄だったが、法定刑がより重い強盗・強制性交殺人罪などを適用した。
被害者は、15~26歳の女性8人と男性1人だ。白石被告は、ツイッターに自殺願望があるような書き込みをした女性らを「一緒に死のう」などと誘い、自宅に連れ込んで次々と殺害したとされる。
白石被告は、金銭や暴行が目的だったと供述している。「本当に死にたいと思っている人はいなかった」とも話している。公判で弁護側が嘱託殺人罪などを主張した場合に備えて、検察側は動機の立証を尽くす方針なのだろう。
猟奇的な犯行だった。ロープで被害者の首を絞めて殺害した後、遺体を切断した。頭部はクーラーボックスなどに隠していた。
起訴前の鑑定留置は、5か月間に及んだ。責任能力が認められれば、起訴罪名では極刑が避けられない重大事件だ。地検が慎重を期したのは理解できる。
事件は、証拠や争点を絞り込む公判前整理手続きを経て、裁判員裁判で裁かれる。
密室内の犯行だけに、事件の全体像の解明は供述に頼る部分が大きい。犯行の残忍さが際立つ一方で、所持金が数百円だった人も被害に遭うなど、白石被告が供述した動機には不可解な面もある。
公判での検察と弁護側の立証を通じて、犯罪史に残る事件の全容を明らかにしてもらいたい。
長期化も予想される公判では、遺体の写真など衝撃的な証拠を扱う裁判員の心身の負担は計り知れない。裁判所には、裁判員への十分な配慮が求められる。
事件の背景には、「死にたい」といった投稿がインターネット上に溢(あふ)れる現実がある。
SNSを通じたやりとりに、外部の目は行き届きにくいとはいえ、自殺を助長するような投稿を漫然と放置すべきではない。白石被告は「死ぬのを手伝います」などと書き込んでいた。
自殺に関連する用語を検索した人に、相談窓口を自動表示する取り組みが始まった。ネットパトロールで自殺願望を書き込んだ人を見つけて、相談へと導いているNPO法人もある。再発防止へ、こうした取り組みを広げたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年09月12日 06:06:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。