【社説】:②ドーピング 処分解除で露は変わるのか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:②ドーピング 処分解除で露は変わるのか
厳格な姿勢を貫いてきたドーピング監視機関の方針転換である。にわかには理解し難い。
世界反ドーピング機関(WADA)が、ロシア反ドーピング機関(RUSADA)の資格停止処分を解除した。これにより、ロシア選手が2020年東京五輪・パラリンピックに全面参加できる可能性が出てきた。
ロシア陸上界の組織的ドーピング疑惑をきっかけに、WADAは15年、RUSADAを資格停止にした。16年には「ロシア政府主導」の不正だったとも認定し、この調査報告を受け入れることを処分解除の条件に挙げていた。
ロシア側は今に至るまで、国主導だったことを否定している。処分解除は、ロシアの「ごね得」との印象が拭えない。
WADAの対応に影響を及ぼしているのは、国際オリンピック委員会(IOC)の動向だろう。
IOCは昨年12月、ロシアの組織的不正を認定し、ロシア選手団の平昌五輪参加を禁じた。一方で、国主導を示す証拠は不十分だとする調査結果をまとめた。平昌五輪後には、ロシア五輪委員会の資格停止を解除している。
WADAは今回、IOCのこの調査結果を認めることへと、処分解除の条件を緩和した。理事会では、賛成9、反対2、棄権1で解除を可決したという。
ロシアスポーツ界のドーピング体質が改善されたのか、現時点では判然としない。妥協に走ったWADAに、各国選手らから批判が相次いだのは無理もない。
スポーツ大国ロシアとの関係を正常化させたいIOCの意向に、WADAが引きずられたのではないか。副会長ですら、「反ドーピングへの信頼を保つ上で、間違った判断をした」と語っている。
独立組織としての存在意義が問われる事態である。
処分解除には、モスクワの検査所にある薬物検査結果のデータや尿検体を年内にWADAに提出するという条件が付いている。RUSADAがきちんと履行するよう、厳しく監督すべきだ。
日本は、処分解除に賛成票を投じた。2020年東京五輪・パラリンピックへのロシア参加を望む姿勢の表れだろうが、疑問が残る対応だと言わざるを得ない。
無論、東京大会には多くの国が参加してもらいたい。ただし、ドーピングとは無縁であることが大前提だ。大会組織委などは、クリーンな大会実現への強い意志を内外に示し、検査体制にも万全を期すことが大切である。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年09月27日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。