【社説】:①日米首脳会談 建設的な通商関係を構築せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①日米首脳会談 建設的な通商関係を構築せよ
◆アジアの安定と発展に貢献を◆
通商問題での対立をひとまず回避し、結束を確認した意義は大きい。政治、経済両面で強固な関係を築き、アジアの安定と発展につなげたい。
安倍首相がトランプ米大統領と会談し、2国間の関税交渉を開始することで合意した。モノの取引を円滑にする物品貿易協定(TAG)の締結を目指す方針だ。
前向きに交渉を進め、双方の成長拡大に資する、建設的な対話の場とすることが求められる。
◆警戒解けぬ自動車関税
日本はこれまで、米国に環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を求めてきたが、トランプ政権が応じる可能性は乏しい。
世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める日米間に、貿易協定がない状況は好ましくない。
日本が譲歩した形とはいえ、TAG交渉を開始し、貿易の活性化を推進することで合意したのは、適切な判断だと言えよう。
ただし、TAG交渉の先行きを楽観することは禁物である。
最大の問題は、米政権が、経済の実情を無視して、貿易赤字の削減を最優先課題としていることだ。
トランプ氏は、2020年に行われる大統領選での再選を目指している。
11月に中間選挙が終わった後も、自由貿易の原則から外れた不当な譲歩を、相手国に迫る手法に大きな変化は望めまい。
首脳会談での懸案は、米国が検討する輸入自動車への制裁関税措置の取り扱いだった。
両政府は会談後、「(日米関係の重要性を謳(うた)った)声明の精神に反する行動を取らない」とする共同声明を発表した。交渉中は制裁を発動しない考えを示したものだと、日本側は説明している。
本来は、制裁の検討自体を撤回するよう求めるべきである。
中国との協議では、米国はいったん制裁を留保することで合意したが、その後、約束を反故(ほご)にして関税を上乗せした。
トランプ氏が、日米交渉の内容に満足できない場合、制裁関税を再び持ち出してこないか。日本は警戒を怠ってはならない。
米国はこれまでの交渉で、メキシコが対米輸出する自動車に、事実上の数量規制をかけた。
日米は、共同声明に「米国の自動車産業の製造や雇用の増加を目指す」と明記した。他の国々と同様、日本に厳しい要求をつきつけてくる不安は拭えない。
数量規制は、自由貿易を歪(ゆが)め、世界貿易機関(WTO)協定に違反する公算が大きい。不合理な提案は、毅然(きぜん)と拒否すべきだ。
日本は輸入車に関税をかけておらず、大量の車を米国で生産してもいる。そもそも日本車を問題視するのは理屈に合わない。
◆TPP水準を守りたい
米国では、中国への制裁措置によって、多くの農産品に報復関税が課され、トランプ政権の通商政策に農家の不満が高まっている。日本へ、農産品の市場開放を強く迫ってくることは確実である。
共同声明は、農業の自由化を過去の協定で約束した水準にとどめる意向も記した。日本側は、TPPでの合意を超える譲歩はしないという意味だとしている。
TPPで合意した内容は、参加国が長年の交渉の末に漕(こ)ぎ着けた、ぎりぎりの落とし所である。それを大きく上回る譲歩に応じて、米国だけを特別扱いすることはできない。
日本は、理不尽な要求に屈せぬよう緻密(ちみつ)な戦略を練りたい。トランプ政権に、自由貿易の意義を粘り強く説き続ける必要がある。
日米首脳会談では、北朝鮮の完全な非核化に向け、国連安全保障理事会の制裁決議を履行することが重要だとの認識で一致した。
2回目の米朝首脳会談の準備が進む中、日米が対北朝鮮政策をすり合わせ、基本方針を確認した意味は小さくない。
◆非核化の期限を区切れ
気がかりなのは、北朝鮮との関係改善に前のめりなトランプ氏の姿勢だ。金正恩朝鮮労働党委員長は、核施設の廃棄に触れたものの、米国が「相応の措置」を取るという前提条件が付いている。駆け引きに惑わされてはなるまい。
トランプ氏が記者会見で、非核化の期限にこだわらない考えを示したことは看過できない。
期限を区切って、核廃棄の具体的な措置を取らせることが重要だ。首相はトランプ氏に繰り返し、そう伝えることが大切である。
両首脳は、日本人拉致問題に関して協力することで一致した。非核化の取り組みを見極めつつ、日本は北朝鮮に対し、拉致問題の協議に応じるよう促すべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年09月28日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。