【社説①】:胆振東部地震1年 被災者に寄り添い支援を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:胆振東部地震1年 被災者に寄り添い支援を
胆振管内厚真、安平、むかわの3町などを襲った胆振東部地震から、きょう1年を迎えた。
犠牲者は、関連死を含め44人に上る。最大震度7の揺れに見舞われ、37人が亡くなった厚真町では、あす追悼式が開かれる。
心から哀悼の意をささげたい。
建物被害は3万棟を上回る。避難者は3町や札幌市など7市町で約1300人に上り、仮設住宅などで不安な毎日を過ごしている。
一日も早く生活再建がかなうよう、国や自治体は、全力を挙げて取り組んでもらいたい。
同じ被災者でも置かれた状況はさまざまだ。展望が見えず立ち尽くす人も少なくない。心身ともに疲れも増している。
真の復興には、被災者に寄り添った息の長い支援が不可欠だ。
地震では、北海道電力苫東厚真火力発電所の損壊による全域停電(ブラックアウト)が起き、命の危機を感じた人もいるだろう。
公共交通機関が止まり、物資を求める長蛇の列ができた。
日本は地震列島であり、大地震はいつどこで起きてもおかしくない。道民一人一人が今回の教訓をかみしめ、しっかり備えたい。
■仮設延長は欠かせぬ
広範囲にわたり大規模な土砂崩れが起きた山々は、今も茶色い地肌をむき出しにしたままだ。
甚大な被害を受けた厚真町北部地区では、再生の議論が始まっている。同町の農地は140ヘクタールが土砂流入の被害を受けた。
被災地一帯で農業基盤の復旧を急がなければならない。国に十分な予算措置を求めたい。
また山が崩れるのではとの不安を拭えない住民もいる。仮設住宅に入ったり、地元での再建をためらう人もいる。戻るか戻らないか結論の出ない家族もあるという。
その苦悩たるやいかばかりか。
こうした中で、被災者は、仮設住宅で2回目の冬を迎えようとしている。
北海道新聞の調査によると、仮設退去後の住まいの見通しが立たない人も、健康状態が悪くなった人も、回答者の半数に達した。
トラウマ(心的外傷)で先々のことまで考えられない人がいるのも当然だ。年金暮らしで貯金を切り崩して生活する人もいる。
入居期限は原則2年だが、延長を求める人が49%もいる。国は切実な声に耳を傾けるべきだ。
その上で、それぞれの状況に応じ、きめ細かな支援の手を差し伸べる責務がある。
東日本大震災など過去の災害でも、疲労やストレスで過度な負担がかかり、亡くなるケースが相次いだ。医療や介護関係者、町内会などが見回り、孤立化を防ぐ努力が求められよう。
■国の対応は硬直的だ
住まいの確保は、生活を立て直すための第一歩である。
なのに、国の支援策は不十分だと言わざるを得ない。
安平、むかわ両町は全壊戸数が補助基準に満たず、国が建設費の3分の2を出す災害公営住宅を建てられずにいる。建設が決まった厚真町でも、入居者は全壊の被災者らに限られる。
家屋の公費解体への補助も、熊本地震や西日本豪雨などは特例措置で半壊も対象となったが、今回は全壊だけだという。
災害規模の違いが理由のようだが、硬直した対応では速やかな復興は望めない。住宅が分散し、財政も厳しい過疎地の復興という道内の事情を考慮し、国は弾力的な運用を図るべきではないか。
地域コミュニティーをどうやって維持するのかも課題だろう。
被災3町の人口はこの1年で計690人減っている。
液状化の被害に遭った札幌市清田区の里塚中央町内会では、2割の世帯がまちを離れたままだ。
地元での再建を願う人も少なくなく、後押しが欠かせない。
被災地へはボランティアが大勢駆けつけ、災害ごみの片付けから心のケアまで幅広く活躍した。善意の継続が復興を前進させる。
■再点検し備え万全に
問題なのは、全道179市町村の約半数が、本庁舎の非常用電源に関し、国の求める72時間分の備蓄燃料を確保していないことだ。
初動の遅れは被害の拡大につながる。国の補助などを利用し、早急に整えなければならない。
厚真町の宮坂尚市朗町長は「大地震が起きれば町職員だけでは手に負えない」とし、他組織からの応援態勢づくりを唱える。遠方の自治体や企業と協定を結べば、人的、物的な支援も得られよう。
地震の際に液状化の起きる可能性のある地域を特定し、対策を練る必要もある。
道東沖では東日本大震災級の超巨大地震の予測がある。自宅や職場にどんな危険があるのか、ハザードマップで確認し、避難場所や経路、備蓄などを再点検したい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年09月06日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。