【筆洗】:体長三五メートル、体重一万トン、出現地は伊勢湾近海と手元の図鑑にはある。そんな化け物が…。
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:体長三五メートル、体重一万トン、出現地は伊勢湾近海と手元の図鑑にはある。そんな化け物が…。
失礼、図鑑といっても怪獣図鑑で、その怪獣の名前は「ガマクジラ」。「ウルトラマン」の第十四話「真珠貝防衛指令」に出てくる▼クジラとカエルを組み合わせたような姿で怪獣にしては愛嬌(あいきょう)のある顔を覚えている人もいるだろう。真珠が大の好物という変わり者で長い舌をホースのように伸ばして真珠を吸い込んでしまう。最後は、ウルトラマンに退治されていた▼最近のニュースに子どもの時に見た怪獣を連想してしまったが、事は深刻である。国内最大のアコヤガイ真珠生産地、愛媛県の宇和海沿岸の宇和島市と愛南町で養殖中のアコヤガイが大量死しているそうだ。真珠の養殖に欠かせぬ貝である▼被害が広がりだしたのは八月初旬。ほとんどの養殖業者では貝の半数以上が死んでしまい、中には全滅に近いところもあるという▼手塩にかけた貝が次々と死んでいく。業者はやりきれぬだろう。同じ名産地の三重県伊勢志摩地域でも今年生まれた稚貝の約七割が死んでしまったと報告される。日本の真珠生産の大きな危機である▼感染症か水温の急な変化か。これだけ大きな被害が出ていながら大量死の原因がはっきりしないというのが不気味である。貝を殺し、真珠生産の邪魔をするモンスターの正体を一刻も早く突き止めたい。