【社説①】:ワクチン接種 混乱招く唐突な前倒し
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ワクチン接種 混乱招く唐突な前倒し
大型連休明けの今週から新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け接種が本格化している。
政府は7月末までに約3600万人の完了方針を示し、自治体に接種計画の前倒しを要請した。
この唐突な国の求めに自治体は困惑している。道が179市町村に行った調査で「7月まで」に終了と答えたのは6割にとどまる。
注射を担う医師らの確保が不十分な自治体も少なくない。電話やインターネットによる予約手続きも各地でトラブルが起きている。
菅義偉首相は「1日100万回」の接種目標を掲げたが、根拠となる数字や具体的な道筋を示していない。これではかえって混乱を助長するだけではないか。
コロナ対策は科学的な知見に加え、現場の状況を把握しながら、丁寧な説明を重ねていくことが欠かせない。
それを怠れば国民の信頼を得ることは難しく、ますますワクチン接種に支障を来すことになる。
先行する医療従事者への接種も進んでいない。そのため未接種の医師らが高齢者の接種に当たっているケースが見られる。
専門家は「感染対策の最前線に立つ医療従事者が感染すれば、治療やワクチン接種作業が滞る恐れがある」と指摘する。
政府は医療従事者への接種を徹底する必要がある。
高齢者接種の予約では横浜市など都市部で電話がつながらない事態が生じた。先着順にした自治体が多く、窓口に列もできた。
札幌市でも今後予約を75歳以上から順次受け付けるが、道外での事例も参考にして混乱を回避するため、きめ細やかな対応と工夫が必要だろう。ネットに不慣れなお年寄りへの配慮も大切だ。
政府は東京都と大阪府に自衛隊が運営する大規模接種会場を設ける。ただ具体的な計画内容は不透明なままで、看護師確保などで民間への委託が批判されている。
東京と大阪だけでなく、体制が整えられるのであれば、地方でも検討を進めるべきだ。
ワクチン接種は感染抑制の鍵となるが、日本の接種回数は主要7カ国(G7)で最低レベルだ。
ワクチン開発を巡り、後発組は大規模な臨床試験の参加者を集めるのが難しくなっている。国産開発が遅れている一因である。
国は製薬会社と少人数の治験でも評価できる枠組みを協議中という。安全性にかかわるリスクと開発が遅れるリスクを比較し、判断がなされるべきだろう。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月12日 05:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。