【連載「五輪リスク」】:⑤開催意義 宮本亞門さん、東京五輪は「中止すべきだ」 参加を迷う学生ボランティアも コロナ禍で遠のく平和と平等の祭典
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【連載「五輪リスク」】:⑤開催意義 宮本亞門さん、東京五輪は「中止すべきだ」 参加を迷う学生ボランティアも コロナ禍で遠のく平和と平等の祭典
1964年10月10日。東京・銀座に住む6歳の少年が、テレビの前でゾクゾクした興奮を感じていた。隣では母親が涙ぐんでいる。
「高鳴るマーチ。色とりどりの衣装で行進する選手団…。赤のジャケットの日本選手団が入場した時、最高潮に達したんです」
◆宮本亞門さん、演出家目指した原点だったが…
演出家の宮本亞門さん(63)が、前回東京五輪の開会式の思い出を感慨深げに語った。「人々が信じ合い、一つになれる一瞬があった。演出家を目指した原点かもしれない」
「東京五輪は中止するべきだ」と語る演出家の宮本亞門さん
2度目の東京大会も期待していた。4年前には関連イベントの演出を担当し、東日本大震災の被災者や障害者とともにステージを作り上げた。
しかし、新型コロナウイルス感染症に世界が震える今は違う。
「高度な医療やワクチンを与えられるのは、お金を持つ人だけ。健康や健全を保てない人々が世界にたくさんいる。平和や平等を掲げる五輪精神と、正反対の事実が進行している。大会は中止すべきだ」
◆五輪への期待、千葉大の学生22人中8人が「ない」
「キラキラ、ワクワク感よりも、感染リスクへの恐怖が大きくなった」(20歳女性)。「医療・補償などにお金を回すことが大事なのではないか」(21歳男性)
本紙は4月、千葉大を拠点とする学生団体「おりがみ」に、東京大会に関するアンケートを実施した。大会ボランティアへの参加、大会関連イベントの企画を手掛けるグループで、22人が回答した。
1年延期前の大会への期待について尋ねると、「非常にあった」「ある程度あった」と答えたのは計21人に上った。
しかし、現在の期待については「非常にある」「ある程度ある」は計12人にとどまり、「あまりない」「全くない」が計8人に。
大会ボランティアに採用中の学生は9人いる。このうち4人は、感染の不安や海外観客の受け入れ断念を理由に、「参加を迷っている」と答えた。
その1人、郡司日奈乃さん(22)は「海外から客が来られず、交流がなくなった。分断された社会のまま大会が開催されてしまう」。
参加継続を決めた5人からは「少しでも大会の空気に触れたい」「平和の祭典に学生として関わる機会はもう二度とない」などの声が聞かれた。
◆近代五輪の祖、クーベルタン男爵「五輪は平和と青春の花園」
近代五輪の祖、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵は、こんな志を掲げていた。
「五輪は単なる世界選手権ではない。平和と青春の花園だ」
世界中の人々が戦争をやめて心を一つにし、平和を実感する。躍動する肉体と命のすばらしさを賛美する。性別、人種、宗教、国境…。お互いの差異を超え、誰もが内に秘める人間性を確認する。
そんな「人類最大の祭典」の理想が、コロナ禍の東京では置き去りにされないか。
国立競技場(東京都新宿区)に聖火がともるのは、7月23日。「大会はどうあるべきか」を考える時間は少ない。(この連載は、臼井康兆、原田遼、藤川大樹、岡本太が担当しました)
※次ページに学生の自由記述の回答をまとめました
【学生団体「おりがみ」へのアンケート自由記述回答】
学生団体「おりがみ」へのアンケートでは、東京大会への期待や開催の可否について、さまざまな意見が寄せられた。
◆「街の盛り上がりムードない」「こんな時代だからこそ感動共有したい」
・選手への検査を徹底し、選手村をいい意味で隔離されたエリアとして作れば無観客試合は開催できる。(22歳、男性)
・盛り上がりを期待する一方、コロナによる世間のネガティブな雰囲気や感染への不安をぬぐえていない。(21歳、女性)
・組織委員会など運営側の意欲が見られなくなった。街に盛り上げるムードが見られない(21歳、女性)
・開催を期待している人はいると信じている。疲弊した社会を照らすイベントになることを信じている(20歳、男性)
・実施に関する部分で未確定な点が多いため不安が大きい(21歳、男性)
・こういう時代だからこそ、スポーツの力で元気や感動を世界で共有したい。(21歳、女性)
・アスリートファーストで実施してもらえたらうれしい(23歳、男性)
・五輪パラリンピックはスポーツを通して、平和な社会や多様性のある社会の実現を目指すものだが、現状はそうもいかなくなり、開催にそこまで期待はしていない。(20歳、女性)
・アスリートの視点に立てば開催すべきだが、世論や国内外の感染症の現状を鑑みれば開催しない方が妥当。(19歳、女性)
・現状の政治体制や日本オリンピック委員会(JOC)の動きが不透明であり、具体的な問題への解決策があがってこない。(22歳、男性)
・感染防止対策は大前提として、「世界の平和の祭典」。コロナで分断された今の時期だからこそ開催してほしい。(24歳、女性)
・開催することによって、コロナが増えてしまうのでは(19歳、男性)
・コロナが収束していない中の開催が不安。世界平和の実現とは思えない。(20歳)
・コロナというオリパラ史上かつてない条件下でどんなことができるか、よりワクワクしている。(22歳、男性)
元稿:東京新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社会 【話題・連載「五輪リスク」・東京オリンピック2020・パラリンピック】 2021年05月07日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。