【社説】:リコール不正で逮捕者 民意の捏造、真相究明を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:リコール不正で逮捕者 民意の捏造、真相究明を
愛知県の大村秀章知事に対するリコール(解職請求)運動を巡る不正署名事件は、逮捕者が出る事態となった。
運動団体の事務局長だった田中孝博元県議と家族ら4人で、署名を偽造したとして地方自治法違反の疑いが持たれている。
民主主義の根幹となる制度を悪用した、民意の捏造(ねつぞう)というべき犯罪行為だ。前代未聞の不正を誰が主導し、どのようにして行ったのか―。真相を徹底究明し、当事者を厳しく罰さなければならない。
署名の一部は、佐賀市内でアルバイトらを雇い、用意した名簿から名前などを書き写させたとみられる。田中容疑者が名古屋市の広告会社に依頼し、行わせた疑いが持たれている。
県選管に提出された43万5千人余りの署名からは、同じ筆跡のものが次々に見つかり、実に8割を超す36万2千人分が無効と判断された。
大がかりな署名偽造で、組織的、計画的に行われた可能性が強い。金銭を払って偽造させたとすれば極めて悪質だ。カネで民意を買おうとする愚行は、参院選広島選挙区での大規模買収事件とも重なる。人ごととせず危機感を持って注視したい。
署名作業の指示系統、どんな種類の名簿が使われたのか、バイト代を含む資金の流れなど、明らかにすべき疑念は多い。
動機の解明も欠かせない。
リコール運動は、そもそも美容外科院長の高須克弥氏が昨年8月に呼び掛けて始まった。芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の展示内容を問題視し、実行委員会会長の大村知事を批判。責任を問うとした。
そこに芸術祭を巡って対立していた河村たかし名古屋市長が加わり、高須氏とともに運動の先頭に立った。運動を積極支援した作家らもいたが、リコール成立に必要な法定署名数86万6千人分に遠く及ばなかった。
逮捕前、報道各社の取材に、田中容疑者は「高須先生に恥をかかせられなかった」と述べていた。事務局長として、運動を腰砕けに終わらせるわけにはいかないとの思いが強かったのかもしれない。
逮捕を受け、高須氏は署名偽造について「全く知らなかった」とあらためて関与を否定した。河村氏は「これで(自身の)関与がなかったことがはっきりする」と述べた。
運動を主導した立場である以上、2人の責任は免れない。運動の実態について具体的に説明すべきだ。
選挙で選ばれた首長や議員を解職できるのがリコールだ。住民が地方自治に直接参加する権利を保障する制度の信頼性を大きく揺るがした。
愛知県選管は事件の教訓として、不正防止に向けて署名集めのルールの厳格化を総務省に提言している。
再発防止に向けた取り組みとして評価できるが、住民が政治参加するハードルが高くなる懸念もある。地方自治を監視する制度の信頼性を守りながら、住民の活動が萎縮しないような配慮が必要だろう。
署名活動は、政治や行政に市民らが意見を示す手段の一つとしても幅広く用いられている。そうした活動に影響を及ぼさないためにも、事件の全容を明らかにし、不正の再発防止に向けた課題を洗い出す必要がある。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月21日 06:32:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。