【社説】:建設石綿、最高裁判決 国主導で全面救済急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:建設石綿、最高裁判決 国主導で全面救済急げ
建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、肺がんなどになった元労働者と遺族を広く救済する流れを確実にしたと言える。国と建材メーカーに損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁第1小法廷がおととい出した判決である。国の賠償責任を認め、メーカーの責任も一部認めた。
「一人親方」と呼ばれる個人事業主らも保護対象とするなど、高裁段階でばらつきのあった幾つかの論点について、初めて統一判断を示した。
国は判決を受け、与党のプロジェクトチーム(PT)がまとめた、最大1300万円の和解金を国が支払うなどの和解案を基にした原告団との基本合意書に調印した。訴訟に踏み切っていない被害者救済へ、和解金と同水準の給付金を出すための制度創設なども盛り込んでいる。
ただ、肝心の建材メーカーは負担を避けようと、制度づくりにそっぽを向くなど、課題も残されている。国主導で全面的な救済を急がなければならない。
石綿は極めて細い繊維からなる天然鉱物である。安価で断熱性や耐火性に優れ、建設材料に広く使われていた。ところが、粉じんを吸い込むと、長い潜伏期間の後、肺がんや中皮腫になるため、「静かな時限爆弾」と呼ばれる。
被害者のうち、石綿工場で働いていた人や近隣住民ら「工場型」については、国の責任を認める最高裁判決が2014年に確定し、救済が進んでいる。しかし今回のような「建設型」については解決していなかった。
最高裁は今回、危険性を認識しながらマスク着用の義務付けなどの安全対策を国が怠ったのは「違法」と判断した。
論点の一つとなった建材メーカーの責任については、複数の加害者に連帯して責任を負わせる民法の「共同不法行為」の規定を適用し、一部を認めた。加えて、損害との因果関係の立証責任を被害者ではなく、加害者にさせる判断も示した。被害者の負担軽減につながりそうだ。
救済対象となる期間については、高裁判断より広く捉えた。国が規制を強化した1975年から法令で石綿製品の使用を広く禁じた04年まで、と踏み込んだ点は評価できよう。しかし、各国で規制が強化されつつあることに触れた通達を出した73年には、国は危険性を認識していたはずだ。もっと厳しい姿勢を示すべきではなかったか。
ふに落ちないのは、屋外作業の2人を救済の枠から外したことだ。風などで粉じんの濃度が薄められることがうかがえるためという。ただたとえ薄められても何度も作業を繰り返せば、一定のリスクがあろう。実際に中皮腫になったのに、逆転敗訴とした判断は甚だ疑問だ。
菅義偉首相はきのう、原告団と会って謝罪した。提訴から10年余り、原告側の元労働者のほぼ7割が亡くなっている。国の謝罪は当然だが、遅すぎる。
幅広く救済する制度づくりは待ったなしだ。国は建材メーカーの説得を急ぐ必要がある。
石綿被害は決して過去の問題ではない。建材を使った民間の建物は約280万棟に上り、28年ごろ解体のピークを迎えるという。作業する人はもちろん、周辺に飛び散らないよう万全の対策や、厳しいチェックが求められる。被害拡大を防ぐため、国の果たすべき責任は重い。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月19日 06:29:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。