【社説】:GDPマイナス 感染抑制が景気対策だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:GDPマイナス 感染抑制が景気対策だ
内閣府が発表した今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)速報値が年率換算で前期比5・1%減となった。3四半期ぶりのマイナス成長に陥った。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1月に再発令された緊急事態宣言で、消費が大きく落ち込んだのが響いた。
感染抑止策を徹底すれば、経済への打撃は避けられない。しかし米国や中国はワクチン接種が進み、いち早くプラス成長に転じている。
ところが日本はどうか。初の緊急事態宣言が出されてから1年たつ。菅義偉首相は「感染防止と経済活動の両立」を掲げ、中途半端に経済活動の再開を急いでは、感染の再拡大を招いてきた。
後手後手に回った場当たり的な政府の対応が、日本経済を再びマイナス圏に引きずり込んだと言えよう。感染の抑制ができなければ、経済回復などおぼつかないと肝に銘じるべきだ。
1~3月期は、GDPの6割近くを占める個人消費が低迷したのが大きかった。企業の設備投資も、通信機器や自動車などで伸び悩んだ。政府の観光支援事業「Go To トラベル」の停止もあって、内需は「総崩れ」の状況だった。
緊急事態宣言は3月にいったん解除されたものの、変異ウイルスの拡大で4月に3度目が発令された。9都道府県にまで広がっている。4~6月期も2期連続のマイナス成長になる恐れがある。
にもかかわらず、麻生太郎財務相は「(補正予算の)効果が今から出てくる」と強調し、加藤勝信官房長官も「総じてみれば持ち直しの動きが続いている」などと述べている。
あまりにも楽観的に過ぎるのではないか。景気回復が顕著な米国などと比べ、日本のワクチン接種は極めて遅い。それが経済的な苦境から抜け出せない要因になっているのは明らかだ。
共同通信の世論調査では、内閣の不支持率は47・3%と菅政権となって最悪となった。新型コロナ対応を「評価する」はわずか25%だ。政権は真剣に受け止めるべきだ。
「K字型」と指摘される景気の両極化が鮮明になっているのが気掛かりだ。
外食産業や旅行業、航空、鉄道などへのダメージが大きく、出口が見えない状態が続いている。一方で輸出が堅調な製造業やゲーム関連などの好業績が目立つ。
苦境に陥っている企業や店舗、事業主はもちろん、家計に対してもきめ細かな目配りと支援の継続が欠かせない。国民の生活と経済の基盤を守るための正念場はこれからである。
経済再生の鍵を握るのは、ワクチン接種の進展だろう。人口100人当たりのワクチン接種回数は米英が80人を超すのに対し、日本はまだ4・83人にすぎない。あらゆる手を尽くして一刻も早く接種を進めなくてはならない。
新型コロナ禍が収束しても、感染症との闘いが終わるわけではない。新たな脅威やリスクに対して備える必要がある。
自前でワクチンを生産できないことが、経済面でも不利になっているのは明らかだ。国産ワクチン開発の体制強化に本腰を入れて取り組むことが政府に求められている。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月20日 07:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。