【社説②】:水素エネルギー 割高なコストの低減が課題だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:水素エネルギー 割高なコストの低減が課題だ
温室効果ガスを出さない脱炭素の実現に向け、水素エネルギーへの期待が高まっている。官民挙げて、山積する課題を克服してもらいたい。
経済産業省は、今月中旬、水素の利用を進める民間事業に計3700億円を投じる計画を発表した。政府が、脱炭素の技術革新を支援するために創設した2兆円の基金を活用するという。
水素の供給網整備、水素を燃料とする火力発電の実用化、国内での製造設備の大型化などを対象とし、事業の公募を始めた。
水素は、燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出せず、水になるだけだ。すでに燃料電池車(FCV)などに利用されているが、大規模な火力発電に使えれば、CO2の削減効果は大きい。
日本の水素関連技術は、世界で最高レベルにあるとされる。基金で後押しし、研究開発のペースを加速させてほしい。
政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げ、水素活用を有力な選択肢の一つに位置づけている。
だが、現状はコストが割高だ。水素による発電は1キロ・ワット時あたり約97円と、液化天然ガス(LNG)火力の7倍かかるという。
大手電力会社は、水素をLNGに混ぜて火力発電の燃料とする試みに着手している。水素の割合を段階的に上げるという。導入の規模を大きくし、コストの引き下げにつなげることが重要だ。
水素の調達費用を下げるには、海外からの輸入が現実的となる。豪州などに多く埋蔵されている、価格の安い「褐炭」という石炭から取り出せるためだ。
川崎重工業などは、液化した水素を運ぶ世界初の専用船を建造し、豪州で作った水素を日本に運ぶ実証実験を始めるという。
液化水素は、マイナス253度以下に冷やして運ぶことが求められ、輸送や貯蔵に関する技術の向上が大切となる。
資源のない日本にとって、液化水素とは別に、国内で水を電気分解して水素を生産できれば、エネルギー安全保障に資する。電気分解に太陽光や風力による電力を使うことが前提だ。
昨年春、福島県浪江町に太陽光の電気を利用して水素を作る世界最大級の施設が稼働した。FCV用などに供給している。
ただ、日本で太陽光発電などの費用は海外より高く、水素も割高になる。国内製造の拡大は、電力コスト抑制など、エネルギー政策全体で考える必要がある。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月26日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。