《社説①》:コロナと少子化 不安を払拭できていない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:コロナと少子化 不安を払拭できていない
国のコロナ対策への不信も反映しているのではないか。
全国の自治体が昨年受理した妊娠届が、前年より4・8%少ない計87万2227件となり、過去最少を更新した。
新型コロナウイルスの感染拡大による不安で「妊娠控え」が起きたとみられている。
感染すると妊婦の体にはどんな影響があるのか。雇用情勢の悪化で家計のやりくりが見通せない。広域で移動する里帰り出産が困難になれば頼れる人がいない。
こうした不安を解消する有効な手だてを打てていない状況が、数字に表れたと考えられる。
妊娠届は、大半が妊娠11週までに出されるため、7~8カ月後の出生数の目安となる。
今年の出生数は70万人台が濃厚だ。2019年に、統計開始(1899年)以来初めて90万人を割り込んだ。国が17年に公表した推計では、20年に80万人台に落ちた後、10年かけて70万人台まで減っていくとしていた。
コロナ禍が少子化のスピードを一気に速めたといえる。
将来の働き手や社会保障制度の担い手の減少に直結する問題だ。すぐに収束すれば短期的な現象にとどまる可能性があるが、長引けば影響は大きい。
コロナ下でも安心して産み育てる社会をどう構築するか、真剣に考えねばならない。
不安の根底にあるのは感染のリスクだ。少しでも減らすために有効なのは徹底した検査だろう。
海外では、学校や会社の運営を通常に戻すための対策として、週2回程度のスクリーニング検査に取り組む事例が出ている。
誰もが感染の有無を調べられる機会を増やし、社会が受け入れれば、安心をつくる下地になる。国内でも民間検査が広がっている。国は助成制度を設けて、利用を後押しするべきだ。
その上で、相談や支援の体制を充実させ、出産や育児を巡る不安の解消に努めたい。
少子化対策は、国が30年近くさまざまに取り組みながら結果が出せていない難題だ。
若い世代での未婚率の上昇や晩婚化が主な要因とされる。背景にある非正規労働の広がりは、コロナ禍で多くの失業者を生んだ。安定した仕事や収入にありつけない不安は一層深刻になっている。
菅義偉政権が掲げるのは、不妊治療の保険適用や男性の家事・育児参加の促進だ。もっと現実に目を向けた具体策がなければ、不安の払拭(ふっしょく)にはつながらない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【社説】 2021年05月28日 09:15:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。