《社説①》:「こどもの日」と平和 大切さ共に考える機会に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:「こどもの日」と平和 大切さ共に考える機会に
きょうは「こどもの日」です。子どもたちの幸せを社会全体で願う日です。
ロシアの侵攻を受けたウクライナでは、その幸せが踏みにじられています。多くの子が爆弾の犠牲となったり、家族と離ればなれになったりしています。
「かわいそう」「恐ろしい」――。いろいろな思いが浮かんでいることでしょう。遠い国での出来事をどのように受け止めていいのか、戸惑っている子もいるかもしれません。
そんな子どもたちに、大人が伝えたいと思っていることがあります。平和の大切さです。
今、世界の人々が向き合っているこのテーマを、大人と一緒に考えてみませんか。
◆自分にできることから
侵攻が始まって以降、戦争や平和について考える時間を設けている学校は少なくありません。
中には、ロシアへの憤(いきどお)りをあらわにする子がいます。それは自然な反応なのかもしれませんが、心配なのは、ロシアの人々を仲間外れにすることにつながらないかということです。
実際、ロシアにルーツのある女の子が、自分は悪くないのに、他の子からなじられたケースもあります。
憎しみをかき立てるのではなく、平和を願う心を育(はぐく)むにはどうしたらいいのか。多くの先生が頭を悩ませています。
埼玉県ふじみ野市の市立葦原(あしはら)中学校では、生徒たちの取り組みが学校や地域を動かしました。
侵攻開始の直後、防空壕(ごう)で「死にたくない」と涙を流す幼い子どものニュース映像に生徒たちは衝撃を受けました。当時の2年生たちが「私たちにできることはないでしょうか」と今伊(いまい)大(ひろし)校長に相談しました。
全校生徒に呼びかけ、平和を祈る折り鶴を約5000羽集めました。「人間は傷つけあうのでなく、助けあう存在であるべきだ」などと書き込んだポスターも作りました。平和への願いを少しでも多くの人に広めようと、市の施設で順繰りに展示しています。
見た人から「子どもたちの豊かな心に感動しました」との声が寄せられています。中心メンバーの一人の石川ひなたさんは「いろいろな人が協力してくれて、平和について考える人が増えました」と振り返ります。
生徒たちは、戦争を自分と関係のない出来事とは思わず、何ができるかを考えることの大切さを学びました。学校が大人の考えを押し付けるのではなく、応援に徹したことも、子どもたちの成長につながったに違いありません。
世界には、他にも紛争の起きている国があります。過去を振り返れば、日本が起こした戦争もありました。戦争に突入すれば、いつでも罪のない人たちの幸せが奪われます。
そうした事態をどうすれば防ぐことができるのでしょうか。平和について考え、話し合う機会が増えてほしいと思います。
◆ゆっくり、しっかりと
平和の尊さを子どもに伝えたいと考えている保護者も多いはずです。ただ、自分自身が戦争を体験していないため、戸惑いもあるでしょう。
長野市の清泉(せいせん)女学院大で先月、ウクライナの民話「てぶくろ」を読み聞かせ、親子で平和について考えるイベントがありました。
おじいさんが雪の上に落とした片方の手袋に、ネズミからクマまで森の動物たちが次々と入り、場所を譲り合う物語です。絵本となって各国で親しまれています。
呼びかけた清泉女学院短大の塚原(つかはら)成幸(しげゆき)准教授は「絵本には大人と子どもの気持ちをつなぐ力があります」と話します。
大人が結論を急ぎ、ただ「戦争はいけない」と教えようとしても、子どもの心にはうまく届かない場合があります。
「戦争で困っている人の気持ちを想像したり、なぜ誰かを攻撃する人がいるのかを考えたりする。ゆっくり、しかし確実に進めてほしいと思います」。塚原さんはそうアドバイスします。
子どもたちにお願いです。
私たちの安心な暮らしは、当たり前のものではありません。昔からの人々の努力でつくられたものです。これからは、皆さん一人一人が守っていく番です。
自分とは違った考えの人を理解し、争いを防ぐ方法を見つけ出す力を養ってほしいと思います。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年05月05日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。